コーヒーの生豆は、焙煎で水分が抜け、糖やクロロゲン酸が分解し、二酸化炭素と香りの成分ができ、豆はふくらんで軽くなります。この記事は、焙煎の流れを一枚で並べたうえで、成分と物性の一つひとつが焙煎度や焙煎の条件でどう動くかを、試験の条件ごとに整理します。
数値はすべて kopi+cha の知識の台帳で原典を確かめた主張から、そのまま載せています。試験の条件(豆の種類・焙煎度・焙煎機・温度・時間)が付いているものは、条件ごと書きます。研究や資料で割れているものは、割れていると書きます。焙煎度の見分け方は「コーヒーの焙煎度の見分け方」に、カフェインと焙煎度は「カフェインと焙煎度の話」にまとめているので、ここでは触れる程度にとどめます。
焙煎の流れを一枚で並べる
| 段階 | 温度(資料の値) | 起きること |
|---|---|---|
| 生豆 | — | 輸出する生豆の水分の目標は 8% 以上 12.5% 以下(ICO 決議 420、2004 年 6 月 1 日から。ISO 6673 の方法で測る) |
| メイラード反応 | 160 ℃付近 | 還元糖とアミノ基をもつ化合物のメイラード反応が進み、HMF などを経て、褐色のメラノイジンと香りの成分ができる |
| CO2 と水の生成 | 約 180 ℃から | 相当量の二酸化炭素と化学的な水を生む反応が始まる |
| 一ハゼ | 概ね 170〜200 ℃(別の資料は典型を約 196 ℃。どちらも温度の種類は明記されない) | 豆の内部にたまったガスの圧力と豆の膨張で起こるとされる。糖や油が豆の表面へ出始める |
| 二ハゼ | — | 一ハゼより割れる音の頻度が高い |
熱は伝導・対流・輻射で豆に伝わります。ドラム式は回転する水平の円筒、流動層式は下から高速の熱風で豆を動かして焙煎します。
焙煎度は、焙煎後の重量減で客観的に表せます。重量減は豆の瞬間温度によらず相関 0.99 でモデル化でき、アラビカとカネフォラで別のモデルが要りました。
色による浅煎り・中煎り・深煎りの区分には、業界全体で合意された共通の規格がありません。数値として用いられるものに Agtron 分析計の値があり、焙煎度分析計は各社の尺度で値を出します。
Agtron Gourmet スケール(全粒)の値で、浅煎りは約 58、中煎りは約 48、深煎りは約 38 を目標に焙煎した研究例があります。
水分が抜け、豆がふくらむ
水分と水分活性
焙煎後の豆の水分は、報告で約 1.3〜4.6% で、生豆の約 8.7〜10.3% から下がり、焙煎が進むほど低くなります。深煎りの水分は、Very dark が 0.89 g/100 g(生豆 8.64)、別の研究の dark が 1.31〜1.34%(生豆 9.8〜10.3%)でした。
ロブスタを 8 段階の焙煎度に焼いた試験では、豆の水分活性は一ハゼのあたりで 0.22 から 0.15 に下がり、成分・物性の大きな変化は一ハゼ以降に起きました。同じ試験で、水分活性が 0.15 を下回ってからもメラノイジンの生成は続き、5-CQA と総フェノールはゆっくり減り、カフェインは安定でした。
重さの減り方
ペルー産アラビカ 200 g の焙煎で、重量減は浅・中・深煎りの順に約 11.2%・12.5%・18.9% でした(有機豆 165 g では約 11.9%・14.0%・18.1%)。軽〜中煎りの境(ライトミディアム)にあたる焙煎は、生豆に対する重量減が約 14% の点だった研究例があります。
体積・空隙・密度
ハゼの音は、豆の内部の空隙が熱で膨張するときに生じると考えられています。焙煎が進むと、豆は体積が膨張して軽くなり、脆くなります。
- 豆を 1 粒ずつ追った X 線 CT(ブラジル・コロンビア・エチオピア産アラビカ)では、空隙率と孔径は生豆から深煎りまで増え、増え方は焙煎時間に比例しませんでした。
- 同じ種類の測定で、豆の体積と重量減はどちらも傾きの違う 2 本の直線で表せました。切り替わりは約 12 分で、重量減は約 7% の点でした。
- 一定の入口空気温度のスパウテッドベッドで焙煎したケニア産アラビカを X 線 CT で測ると、豆の空隙率は焙煎で最大 60% 増えました。
- エチオピア産の焙煎実験で、電子顕微鏡の豆断面の空隙率は、生豆の 13.6% から最も深い焙煎(R7)の 45.8% まで、焙煎が進むほど増えました。
糖とメイラード反応、メラノイジン
糖の動き
焙煎では、糖類とアミノ酸が反応するメイラード反応により、ピラジン等の焙煎香のもとが生じます。アミノ酸が関わるストレッカー反応とその後の環化は、ピリジン・ピラジン・チアゾール・ピロールなど、香りに働く化合物を生みます。
生豆の主要な低分子糖はスクロースです。アラビカとロブスタの HPLC 測定で、スクロースは焙煎で速く分解し、軽い焙煎で 97% が失われ、深い焙煎ではすべて分解されました。
90 ℃から約 215 ℃へ上げる工業焙煎では、スクロースは減り、果糖とブドウ糖は 12 分で最大になった後に急に分解しました。200・220・240 ℃の焙煎の速度論モデルでは、スクロースはグルコースとフルクトフラノシル陽イオンに分解し、後者が主に HMF を生じました。
淹れた液の糖は、浅めの焙煎で合計 0.9 mg/mL 超、中・やや深めで 0.2 mg/mL 未満でした。この測定ではスクロースは分析中に熱で分解するため、直接測っていません。
糖は香りの前駆体でもあります。
- 焙煎で生じる酸味の大きな部分を占めるギ酸・酢酸・グリコール酸・乳酸は、生豆側ではスクロースが主な前駆体で、糖を加えた生豆の焙煎でこれらの収量が増えました。
メラノイジン
メラノイジンは、焙煎中にできる窒素を含む褐色の高分子で、メイラード反応の最終生成物とされます。同じ豆を 4 つの焙煎速度で 3 つの焙煎度まで焼いた系列で、メラノイジンなど高分子量の成分は浅煎りから深煎りへ増え、クロロゲン酸など低分子量の成分は減りました。
- 生豆から浅煎りへの初期の焙煎では中分子量のメラノイジンが主に生じ、焙煎が長引くと高分子量のメラノイジンが主に生じました。
- コーヒー抽出液の分析で、メラノイジンの大半は焙煎の早い段階ですでにできており、全抗酸化能に占める割合は深煎りほど増えました。
- 浅・中・深煎りの抽出液から分けた陰イオン性メラノイジンの画分は、冷水に溶ける高分子量物質の 30〜33% で、焙煎度によりませんでした。
- 単離したメラノイジンを自然な濃度でカフェインに加えた官能試験で、同濃度のカフェイン水溶液に比べ、苦味強度が約半分に下がりました。
抽出液のサイズ排除クロマトグラフィーでは、焙煎でクロロゲン酸は分解し、メラノイジンとクロロゲン酸のピーク面積の比が焙煎度の予測指標に提案されました。
クロロゲン酸とラクトン・フェニルインダン、トリゴネリン
クロロゲン酸の減り方
クロロゲン酸類はコーヒー豆に含まれるポリフェノールの一種です。アラビカ種にも含まれ、ロブスタ種の方が含有量が高い傾向があります。野生系統の HPLC 測定でも、カネフォラの方がクロロゲン酸が多く、アラビカの方がトリゴネリンとスクロースが多くなりました。
クロロゲン酸は焙煎で大きく減ります。生豆に比べ中煎りでは 70〜80% が失われるとの報告があります。条件つきの測定は次のとおりです。
| 試験の条件 | 減り方 |
|---|---|
| 1 銘柄のアラビカを 2 段階で焙煎し、淹れた液で測定 | 未焙煎に比べ、中焙煎で約 85%、強い焙煎で約 92% 減 |
| エチオピア産 3 銘柄の深煎り(dark) | 総クロロゲン酸が生豆に比べ、ドラム式で 81〜93%、流動層式で平均約 90% 減 |
減る速さは反応速度の式で表されています。乾燥オーブンの焙煎では、クロロゲン酸の減少は一次反応に従い、速度定数 k は 160・180・220 ℃で 0.0242・0.0418・0.0606 min^-1、活性化エネルギーは 26.023 kJ/mol でした。
ラクトン
焙煎中にクロロゲン酸の一部がラクトンに変わります。最も多い 3-カフェオイルキナ酸ラクトンは、軽〜中焙煎(重量減約 14%)で 230〜254 mg/100 g(乾物)に達します。ラクトンの最大量は、ラクトンになりうる前駆体のクロロゲン酸の約 30%(アラビカ 2 品種とロブスタの焙煎)に当たりました。
ラクトンは強い焙煎では再び分解します。カフェオイルキナイド類は浅〜中煎りで優先して生じ、強い焙煎では分解して、4-ビニルカテコールのオリゴマー(強く苦い)に変わると測られました。260 ℃で 60〜600 秒、または 240 秒で 190〜280 ℃にして焙煎した液でも、モノ・ジカフェオイルキニドは浅〜中煎りで多く生じ、強い焙煎では 4-ビニルカテコール重合物に変わりました。
キナ酸ラクトン(クインド)類は、化合物ごとに水中の苦味の認知閾値が 9.8〜180 µmol/L と、構造で大きく違いました。
フェニルインダン
カフェ酸の加熱で、強い焙煎のエスプレッソに似た苦味が生じます。フェニルインダン 8 種を含む 10 種の苦味物質(閾値 23〜178 µmol/L)が同定され、コーヒー液でも検出されました。フェニルインダンは焙煎中にできる成分で、深煎り(焙煎時間が長いもの)ほど濃度が高く、深煎りの苦味の大きな要因とされます。
トリゴネリン
トリゴネリンは焙煎で熱分解して、N-メチルピリジニウムやニコチン酸を生み、焙煎が深いほど豆のトリゴネリンは少なくなります。
- 焙煎度の異なる豆の同位体希釈分析で、トリゴネリンは大きく減り、生じたニコチン酸は当初のトリゴネリン量の 4〜6% で、ニコチンアミドは低いまま一定でした。
- アラビカとロブスタを 160〜240 ℃で焙煎した測定で、トリゴネリンの損失は焙煎度に強く依存し、ニコチン酸の生成を伴いました。カフェインの減りは小さかった。
- HPLC による焙煎中の追跡で、トリゴネリンの損失は焙煎度に強く依存し、ロブスタのほうがアラビカより大きくなりました。
- アラビカでは、1-メチルピリジニウムなどアルキルピリジニウムの量が焙煎度と正の相関を示し、深煎り豆で重量あたり最大 0.25% に達しました。
酸の動き — 一ハゼで山になる
5 kg の業務用ドラム焙煎機で焙煎曲線を変えても、滴定酸度は一ハゼのときにピークとなり、二ハゼまでに焙煎前の値に戻りました。水洗式アラビカの生豆で 2.2、ピークは全曲線・3 銘柄の平均で 4.9 mL NaOH/40 mL で、一ハゼと同時でした。二ハゼの始まりでは、温度曲線によらず初期値付近に戻り、FS・EF・PR の曲線で 2.5・2.7・2.8 mL NaOH/40 mL でした。
焙煎が進んだ後の抽出液は、次の動きをします。
| 試験の条件 | 焙煎が浅い側 → 深い側 |
|---|---|
| コロンビア産アラビカ、排出温度 194・203・209 ℃、ホット抽出 | pH 4.80・5.04・5.39、滴定酸度 4.82・3.55・2.06 mL |
| エチオピア産のエスプレッソ抽出液(Light-medium → Very dark) | pH 4.79 → 5.67、滴定酸度 1.51 → 1.10% |
| French press、浅め・中・やや深め、TDS 約 1.1、室温で測定 | pH 3.97・4.10・4.25 |
オンライン計測の研究では、高温短時間から低温長時間の profile へ、または中煎りから深煎りへ進むと、抽出液の pH が上がる傾向が産地によらず見られました。
二酸化炭素 — できる量・残る量・抜ける量
焙煎でできるガスの大半は二酸化炭素(CO2)です。一部は焙煎中に出て、一部は豆の多孔質の構造に残り、保存中や挽くとき・抽出のときに少しずつ出ていきます。
残る量
流動層で焙煎したアラビカの豆 1 g あたりの残留 CO2 は、次のとおりでした。
| 焙煎度 | 残留 CO2(mg/g) |
|---|---|
| 浅煎り | 6.29〜6.70 |
| 中煎り | 11.04〜11.51 |
| 深煎り | 15.36〜15.62 |
| 極深煎り | 15.11〜15.97 |
同じ試験系の別の測定では、焙煎後の残留 CO2 量は明度 L* と正の相関(浅いほど多い)を示し、CO2 の放出速度は焙煎度が進むほど増えました。
焙煎の速さと CO2
流動層で焙煎したアラビカでは、同じ焙煎度で比べると、高温短時間で焼いた豆のほうが、低温長時間より CO2 の放出速度が有意に大きくなりました。一方、同じ焙煎度では、230 ℃の低温長時間と 250 ℃の高温短時間で、豆に残る CO2 量に有意差はありませんでした(p>0.05)。
別の試験でも、高温短時間と低温長時間の焙煎で CO2 の発生速度は違いましたが、63 日の保存後までに放出された CO2 の総量は等しくなりました。
挽くと抜ける量
焙煎豆を挽くと、全粒に比べて残留 CO2 の約 26〜30%(粗挽き)、33〜38%(中挽き)、45〜59%(細挽き)が失われました。挽いた豆からの CO2 放出速度は、挽き目と焙煎温度に強く左右され、焙煎度には比較的左右されませんでした(流動層焙煎のアラビカ)。
全粒の脱ガス
アラビカの全粒を 35 ℃で 400 時間以上脱ガスしたときの重量減は、浅煎り 2.5〜2.8・中煎り 4.7〜6.6・深煎り 8.5〜11.9 mg/g でした(焙煎速度 3 水準の範囲)。
香りの成分
焙煎度と香気成分
SCA の色板で焙煎度を 4 段階(RL85・75・55・25)にした嗅ぎ分けでは、次の結果でした。
- 2,5-ジメチルピラジン(ロースト香)のにおいは RL75 で最も強かった。
- 2-エチル-6-メチルピラジンと 2-エチル-3-メチルピラジンは、最も深い RL25 の焙煎ではにおいとして検出されなかった。
- 4-メチルチアゾールとギ酸フルフリルは、最も深い RL25 の焙煎でだけ検出された。
エチオピア産アラビカの冷抽出液を HS-SPME-GC/MS で測ると、ピラジン類・フラン類(フルフラール除く)などは、浅煎りから中煎りで有意に増えました(p<0.05)。同じ冷抽出液で、フラン類のうちフルフラールだけは焙煎が深くなるほど減り、酢酸フルフリルは浅煎りで最も少なく、深煎りで最も多くなりました。
9 分・14 分(232 ℃)と 14 分(250 ℃)で焼いた浅・中・深煎りでは、深煎りで 2-メチルフランとピリジンの相対濃度が、浅・中煎りより大きく増えました。同じ試験で、浅煎りを見分ける揮発成分として、5-メチル-2-フランメタノール・2-ペンチルフラン・2,6-ジメチル-2,6-オクタジエン・3-メチル-2-ブテン酸が挙がりました。
アラビカを 6 通りの焙煎曲線で焼くと、フルフリルアルコールは最も浅い焙煎の 70 mg/kg から最も深い焙煎の 223 mg/kg へ、フランは 1.2 mg/kg 未満から 3.6 mg/kg へ増えました。
市販の挽き豆の同位体希釈分析では、12 種のアルキルピラジンの合計は 82.1〜211.6 mg/kg で、最も多い成分は 2-メチルピラジンでした。アルキルピラジンはコーヒーの鍵香気成分とされ、炭水化物とα-アミノ酸の反応で焙煎中に生じるとされます(エスプレッソの総説の記述)。
官能評価で見た焙煎度
訓練パネルが 15 項目で評価した試験(エチオピア・ハワイ・エルサルバドル)では、浅煎りは全段階で甘く、深い焙煎ほど coffee・roasted・burnt/acrid・ashy/sooty の香りの強度が高くなりました。
焙煎色を揃えた 7 件の回帰では、development time が長いほど酸味(傾き −0.011)・フルーティ(−0.005)・甘味(−0.002)が下がり、苦味(+0.003)・roasted bread(+0.005)が上がりました。同じ回帰で、development time は評価 9 属性のすべてに有意に効きましたが、一ハゼまでの時間が有意だったのは 5 属性(酸味・苦味・clean cup・フルーティ・後味)でした。
同じ焙煎度でも、速さと温度で変わること
同じ色でも
焙煎色を Agtron 76 に揃え、一ハゼ後の時間を 90・143・266・390 秒にした試験です。
| 一ハゼ後の時間(秒) | 90 | 143 | 266 | 390 |
|---|---|---|---|---|
| 抽出液の 5-CQA(mM) | 3.52 | 3.24 | 2.33 | 2.44 |
| 抽出液の 3-CQA(mM) | 1.24 | 1.23 | 0.96 | 1.00 |
| 苦味の点(15 点尺度、46 人) | 5.7 | 6.5 | 8.0 | 8.6 |
| ボディの官能点 | 6.9 | 7.4 | 7.2 | 7.1 |
苦味の点は一ハゼ後の時間が長い試料ほど高く、ボディの官能点は 90〜390 秒で有意差がありませんでした(p=0.37)。
滴定酸度の経過
滴定酸度のピークは profile によらず似ていましたが、焙煎 9 分時点では slow start が 2.4、exaggerated flick が約 2 倍で、最終値は 1.2±0.1 の群と 1.7±0.2 の群に分かれました。
ロブスタを速い・中間・遅いの 3 速度で中煎りまで焙煎した比較では、成分と官能の香りの語に差が出て、速い焙煎は天然ガス消費が大きく減りました。
体積と細孔
同じ焙煎度まで 2 通りの熱風焙煎をした比較で、高温焙煎の豆は低温焙煎の豆より、豆の体積と細孔容積が大きく、細胞壁のミクロ孔も大きくなりました。浅・中・深・ベイクドの 4 通りの焙煎の X 線 CT では、カッピング点が最も高い焙煎曲線は、全細孔体積が大きく、オイラー数が負でした。
焙煎機による違い
ドラム式と流動床式を、同じ豆温度の経過になるよう温度プロファイルモードで運転すると、香気成分の生成速度は両者でよく似ていました。エチオピアの 3 産地を、ドラム・流動床(IKAWA)・手鍋式の焙煎機で浅〜深煎りに焙煎した試験では、中煎りの試料について、3 人のカッパーが付けた属性の点数に、焙煎機の種類による有意差(p>0.05)はありませんでした。
アクリルアミドの量の推移
ここでは、量だけを並べます。健康への影響は、この記事では扱いません。
EU のアクリルアミド指標値(規則 2017/2158 付属書 IV)は、焙煎コーヒーが 400 µg/kg、インスタントコーヒーが 850 µg/kg です。
焙煎の途中で山になる
| 試験の条件 | 推移 |
|---|---|
| ロブスタの実験 | 焙煎の中間段階(160〜180 ℃)で最大になりその後減る。180 ℃で 974 µg/kg、焙煎終了時に 109 µg/kg |
| 90 ℃から約 215 ℃へ上げる工業焙煎 | 10 分(175〜177 ℃)に最大。アラビカで 1045、ロブスタで 795 µg/kg。10 分を過ぎると速く減り、14 分(203〜205 ℃)には 400 µg/kg を下回り、最終製品は約 300 µg/kg |
焙煎度で並べると
| 試験の条件 | 量(µg/kg) |
|---|---|
| アラビカを 6 通りの焙煎曲線で焙煎。最も浅い焙煎(終了 200 ℃)と最も深い焙煎(同 222 ℃) | 470 と 130 |
| アラビカ 15 試料を浅・中・深煎りにして測定 | 浅 260.1、中 260.6、深 303.3(深煎りだけ有意に高い。p<0.05) |
焙煎度とアクリルアミド量の関係は、試験で割れます。浅いほど多い例、浅煎りと中煎りの間で最大になる例、深煎りが最も多い例があります。上の二つの表も、向きが逆です。
国内の小売品の値
国内の小売店で買ったレギュラーコーヒー(豆)60 点(平成 30 年度)のアクリルアミドは、最小 0.14・最大 0.38・平均 0.25・中央値 0.26 mg/kg でした。インスタントコーヒー(固形)60 点(平成 30 年度)は、最小 0.30・最大 1.0・平均 0.55・中央値 0.54 mg/kg でした。
資料で割れていること・まだ分かっていないこと
- アクリルアミドと焙煎度。 浅いほど多い・浅煎りと中煎りの間で最大・深煎りが最も多い、の三通りの結果があり、割れています。焙煎の途中で山になるという経過は、複数の試験で一致しています。
- ピラジン類は焙煎度とともに増えるか。 冷抽出液の GC/MS では増え、嗅ぎ分けでは一部の種類が最深の焙煎で検出されませんでした。測り方で結論が分かれています。
- カフェインと焙煎度。 「焙煎の影響を受けない」とする測定と、「40〜60% 減」とする報告、1922 年の分析表の微減があり、資料で割れています。詳しくは「カフェインと焙煎度の話」にあります。
- カフェインと苦味。 カフェインとクロロゲン酸の複合体の形成は、NMR と官能試験で調べた結果、カフェインの苦味に影響しないとされました。
- 同じ焙煎度の数値。 焙煎度の色の尺度は各社で違い、エチオピア産 3 銘柄を 3 種の焙煎機で深煎り(dark)に焙煎した 8 試料の Agtron 値は 25.1〜56.6 でした。
自分で確かめるときは
焙煎度が同じに見える豆でも、一ハゼ後の時間や温度の経過が違えば、抽出液の成分と苦味の点が変わります。上の試験では、同じ Agtron 76 で一ハゼ後の時間を 90 秒から 390 秒に延ばすと、5-CQA は 3.52 mM から 2.44 mM に、苦味の点は 5.7 から 8.6 になりました。
比べるなら、同じ豆・同じ焙煎度の表示で、焙煎日の違う二つを、同じ挽き目・同じ湯温・同じ時間で淹れ、においと苦味の出方の違いを見るところから始められます。挽いた後は CO2 が抜けていく速さが挽き目で違うので、挽いてから淹れるまでの時間を揃えます。コーヒー豆の保存は「コーヒー豆の保存」に、淹れ方の変数は「ハンドドリップの変数」にまとめています。焙煎度の見分け方は「コーヒーの焙煎度の見分け方」にあります。