店で飲むチャイはコクがあって渋くないのに、家で同じ茶葉を使い、教わった手順で淹れても、薄かったり渋かったりする。この記事は、そんな場面で何が効いているのかを、研究の結果から考えるためのものです。
先に断っておくと、「この手順なら必ず店の味になる」という研究はありません。この記事は、茶葉・時間・ミルク・加熱・水・香辛料・砂糖のそれぞれについて、実験で確かめられたことを、実験の条件と一緒に並べます。条件が家の鍋と違うものは、そう書きます。数値はすべて kopi+cha の知識の台帳で原典を確かめたものです。
現地の作り方: 水が少なく、乳が多い
最初に見ておきたいのは、現地の作り方の分量です。パキスタンの地元の紅茶(チャイ)は、茶葉を水で煮て乳と砂糖を加え、4〜5 回沸かしてから茶こしで漉して作ります。1 杯 150 mL あたりの茶葉は平均 5 g ほどです。この作り方を再現した研究の条件は、次のとおりでした(密閉の電気ケトルでの実験で、家庭や露店の実測ではありません)。
| 茶葉 | 水 | 乳 | 砂糖 | 沸かす回数 |
|---|---|---|---|---|
| 5 g | 50 mL | 200 mL | 5 g | 4 回 |
水と乳の比は 1 対 4 で、乳が主役です。一方で、水 3 カップに全乳 1 カップを加える作り方を標準とする説明もあり、こちらは水と乳の比が 3 対 1 です。同じ「パキスタンのチャイ」でも、乳の割合にはこれだけの幅があります。乳の割合が味を大きく左右することは、別の研究でも示されています。水で抽出した黄茶に牛乳を混ぜるミルクティーの実験では、茶と水の比・抽出時間・温度・茶と牛乳の比のうち、味に最も効いたのは茶と牛乳の比でした(茶葉を乳で煮るチャイそのものの実験ではありません)。
現地の言葉にも、何が大事にされているかが表れています。ヒンディー語・ウルドゥー語の कड़क चाय/کڑک چائے(カラク・チャイ)は、辞書で「強い茶」の意味です。दूध पत्ती/دودھ پتی(ドゥードゥ・パッティ)は「乳」と「茶葉」を合わせた語で、乳で茶葉を煮る茶を指します。インドのイラニ・カフェで出す濃い茶は「पानी कम चाय(パーニー・カム・チャイ)」と呼ばれ、字義は「水の少ない茶」です。インド国内の予備調査(2024 年 4 月)では、ミルクと砂糖入りの茶を好むと答えた世帯が 80% を超えました。
茶葉: 細かい粒ほど速く出る
パキスタンのチャイは、CTC 製法(茶葉を押しつぶし・引き裂き・丸めて粒にする製法)の紅茶・ミルク・砂糖で作る乳入りの茶と説明されています。
粒の大きさは、成分の出る速さに直接効きます。80℃ の湯で紅茶の成分が出る速さを測った実験では、ふるい分けた茶葉の粒が 850〜1000 µm から 500〜600 µm に小さくなると、抽出の速さが 2.2 倍になりました。同じ実験で、ケニアの CTC 茶はインドのオーソドックス茶(葉の形を残す製法)より速く出ました。茶ごとの速さの差の約半分は粒の大きさで説明でき、残りは葉そのものの性質とされています。
茶の鑑定の場でも、CTC は濃く出る茶として扱われます。南インドの茶研究機関の解説では、1 kg の茶葉から淹れられる杯数の目安を、オーソドックス茶で 300〜400 杯、CTC 茶で 400〜500 杯としていて、ダスト(さらに細かい等級)はもっと多くなります。鑑定ではミルクを加えて液の色と濃さを見ることもあります。
時間: カフェインは最初に、ポリフェノールは後から
煮出す時間で、出てくる成分の順番が変わります。
- CTC 紅茶 5 g を沸騰直後の湯 500 mL に入れた実験では、カフェインや主なカテキンは最初の 2 分で速く出て、総ポリフェノールとフラボノイドは 6〜8 分で最大になりました。
- 市販の紅茶 41 銘柄を、茶葉 2 g・湯 200 mL・100℃ で浸した実験では、200 mL あたりのカフェインが 2 分で 17 mg、5 分で 23 mg、10 分で 27 mg と増えました。これは密閉した容器で浸した結果で、沸かし続ける煮出しではありません。
- トルコ式の二段ポットで紅茶 30 g を湯 500 mL で弱火にかけた実験では、15 分と 20 分でカフェインは同じでした。総ポリフェノールは 20 分が 4.9%、15 分が 4.4% です。訓練した 7 人の官能評価でも、渋みと風味の点数に差はありませんでした。ただし、これは長く煮出す条件どうしの比較で、短い時間との比較ではありません。
ミルク: たんぱく質が渋みの成分をつかまえる
チャイの渋みを左右する要素のうち、研究の根拠がいちばんそろっているのはミルクのたんぱく質です。
- ミルクの主なたんぱく質であるカゼインは、茶のカテキン類と結びつきます。精製したカゼインとカテキンの溶液の実験では、EGCG(茶の代表的なカテキン)との結合の強さは、β-カゼインのほうがα-カゼインより大きくなりました。
- 唾液のたんぱく質の模型(ゼラチンの膜)を使った実験では、カゼインが茶のポリフェノールとゼラチンの結びつきを弱めました。研究者はこれを、渋みの感覚が下がることを示すと解釈しています。
- 緑茶の液にミルクを混ぜて 100℃ で 15 分加熱した実験では、ミルクのたんぱく質を増やすほど、たんぱく質に結びついたポリフェノールの割合が 19.63% から 51.08% に上がり、遊離のポリフェノールが減りました。
ミルクの量を増やす、ミルクの濃いもの(たんぱく質の多いもの)を使う、ミルクと一緒に加熱する。どれも、渋みの成分をつかまえる側の量を増やす方向に働くと考えられます。
水で淹れた茶にミルクを加えた実験でも、同じ向きの結果が出ています。緑茶・紅茶に全脂・半脱脂・脱脂の牛乳を加えると、元の茶ポリフェノールの 90% 超がミルクの中の微小な粒(ナノ凝集体)に集まり、遊離のポリフェノールの割合は緑茶で 78%、紅茶で 67% 下がりました。
脂肪については、たんぱく質ほどはっきりしません。
- 茶そのものではなく緑茶カテキンの水溶液を使った日本の官能評価では、牛乳・9% 脱脂乳・3.8% クリームのどれを等量混ぜても、渋味の点数が基準の 6 点から 2.8〜3.5 点に下がりました。脱脂乳とクリームを比べた対比較(22 人)では、クリームのほうが渋いと答えた人が有意に多くなりました。
- 茶にミルクを加えたときのナノ凝集体への影響は、脱脂乳が最も大きく、全脂乳が最も小さいという測定もあります。
- ミルクの脂肪球に緑茶のカテキンを加えると、カテキンが脂肪球の膜と結びつくことが示唆されています。牛乳だけの実験(茶は入れていない)では、脂肪が多いほど粘度が高く、摩擦が小さくなりました。
これらを合わせると、渋みを抑える主役は脂肪よりたんぱく質で、脂肪は口当たり(粘度・なめらかさ)の側に効いている、という読み方ができます。ただし、紅茶のミルクティーで脂肪の量を変えて渋みやコクを官能評価した研究は、今回も見つけられませんでした。
ミルクと茶の抗酸化成分は、研究で結果が割れている
茶にミルクを入れると、茶の抗酸化成分の働きが落ちるかどうかは、研究によって結果が違います。
- 健康な女性 16 人が紅茶 500 mL を飲んだ試験では、血管の広がり方が水より大きくなりましたが、脱脂乳を 10% 加えた茶ではその差が見られませんでした。
- 一方、紅茶 400 mL を飲んだ試験では、血液の抗酸化能やカテキンなどの上がり方は、ミルクを加えても変わりませんでした。紅茶 135 mL にミルク 15 mL を加えた試験でも、ケルセチンなどの血中濃度は茶だけの場合と変わりませんでした。
- 試験管の中の実験では、カゼインが入ると茶のポリフェノールの抗酸化活性が 11〜27% 下がりましたが、測り方によって結果は変わりました。消化を模した実験では、ミルクを加えるとカテキンの回収率は下がったものの、吸収されうる量は茶だけの場合と同じ程度でした。
この記事では、どちらか一方に寄せた結論は出しません。
煮詰める: 加熱でミルクの成分が変わる
チャイは、ミルクを加えてからもう一度煮出して作ります。ミルクを加熱したときの変化は、実験室ではよく調べられています。ただし、条件は家の鍋とかなり違います。
- 低温殺菌乳を金属のブロックで 110〜140℃ に加熱した実験では、乳糖が減り、110℃・5 分で 9.21%、140℃・3 分で 16.10% 減りました。メイラード反応(糖とたんぱく質が反応して色や香ばしさが生じる反応)の初期にできる物質の目安(フロシン)は、120℃・5 分の加熱で約 3 倍に増えました。
- 同じ温度帯の実験で、この反応の進み方を決める段階や、途中でできる物質の速さも測られています。
- 工場の殺菌の比較では、85℃・15 秒で殺菌した乳からは検出されなかったケトン類とフルフラールが、137℃・2〜4 秒の UHT 乳でだけ検出されました。
鍋で煮るミルクは 100℃ 前後で、時間は長くなります。実験室の高い温度の結果を、そのまま鍋に当てはめることはできません。もう少し鍋に近い条件の研究もあります。
- 牛乳を 70・80・90℃ で 0.5〜20 分加熱した実験では、ヘプタナールや 2-ヘプタノンなどの香りの成分が、加熱が強いほど増えました(加熱の強さとの相関係数は 0.86 以上)。90℃ では 5 分で 3.57 µg/kg、20 分で 5.51 µg/kg と、時間とともに増えています。
- 90〜140℃ の加熱の研究では、メイラード反応の指標(HMF・ラクチュロース・フロシン)は、加熱の初めのうちは時間にほぼ比例して増えました。乳の脂肪の量は、HMF とラクチュロースのでき方にはほとんど影響しませんでした。
- インドには、乳を鍋で煮詰めて作るコア(khoa)という乳製品があります。インドの国立乳業研究所の測定では、生乳には無いラクチュロースが、煮た段階、コアの段階と進むにつれて増え、HMF とフロシンも段階ごとに増えました。乳のたんぱく質のリシンは減りました。
煮詰めるほど、メイラード反応が進み、加熱の香りの成分が増える向きにあることは、これらの研究で一致しています。ただし、チャイを何分煮るとどう香ばしくなるかを、鍋の条件と官能評価で測った研究は見つかっていません。
エバミルクと練乳: 規格で決まっている中身
ミルクのたんぱく質と脂肪を増やす手段として、エバミルク(無糖練乳)・加糖練乳・脱脂粉乳があります。成分は日本の乳等省令で決まっています。
| 種類 | 乳固形分 | 乳脂肪分 | ほかの決まり |
|---|---|---|---|
| 無糖練乳(エバミルク) | 25.0% 以上 | 7.5% 以上 | — |
| 加糖練乳 | 28.0% 以上 | 8.0% 以上 | 水分 27.0% 以下、糖分(乳糖を含む)58.0% 以下 |
| 脱脂粉乳 | 95.0% 以上 | — | 水分 5.0% 以下 |
国際的な食品規格(コーデックス)でも、エバミルクは乳脂肪 7.5% 以上・乳固形分 25% 以上で、脂肪を除いた乳固形分のうちたんぱく質が 34% 以上と決められています。香港式ミルクティーは、生乳ではなくエバミルクか植物性脂肪入りのものを使います。湾岸諸国のカラク(南アジア系の濃いミルクティー)も、茶葉をスパイスと煮立て、エバミルクを加えて煮込んで作るとされます。
パキスタンのミルク: 水牛乳と紅茶用クリーマー
日本の家庭の牛乳とパキスタンのチャイでは、乳そのものが違う可能性があります。
- パキスタンの乳の総生産は、2024-25 年度の推計で約 7,234 万トン、そのうち水牛乳が約 4,313 万トン、牛乳が約 2,708 万トンです。2019 年の割合では、水牛乳が 60%、牛乳が 37% でした。乳の約 97% は仲買人を通じてばら売りされ、UHT などの加工乳は 3〜5% とされます。
- 国連食糧農業機関(FAO)がまとめた食品成分表の平均では、100 g あたり水牛乳は脂肪 7.5 g・たんぱく質 4.0 g、牛乳は脂肪 3.3 g・たんぱく質 3.3 g です。水牛乳の脂肪の範囲は 5.3〜9.0 g と幅があります。ただし、ラーワルピンディーとイスラマバードの各 10 検体の小さな分析では、脂肪に有意差がなく、たんぱく質はむしろ牛乳が多いという結果でした。研究で割れている点として扱います。
- 紅茶用クリーマー(tea whitener)は、植物油脂・たんぱく質(カゼインナトリウムか大豆たんぱく)・糖類・乳化剤などでできた製品です。ラホールで買った製品の分析では、液状品は脂肪 4.28〜6.48%・たんぱく質 2.7〜5.4%、粉末品は脂肪 23.06〜29.03% でした。パンジャーブ州食品庁は 2017 年、包装面積の 15% に「This is not milk」と表示するよう製造者に求めたとされます。
店がどの乳を使っているかで、脂肪とたんぱく質の量は大きく変わります。上のミルクの研究と合わせると、乳のたんぱく質と脂肪が多いほど、渋みは抑えられ、口当たりは重くなる方向に働くと考えられます。
水: 硬い水は膜を作り、カテキンを減らす
- 紅茶の表面にできる膜(スカム)は、カルシウムかマグネシウムのイオンと、炭酸水素イオンの両方がある水でだけできました。
- 硬い水で淹れた紅茶にミルクを加えると膜は大きく増えました。この膜は、茶のポリフェノールで変化したミルクの成分が、カルシウムで固まったものでした。
- 緑茶のティーバッグを 70℃・3 分で淹れた実験では、水の硬度を上げると 1 杯あたりの総カテキンが 164.6 mg から 67.5 mg に減りました。これは緑茶の結果で、紅茶やチャイについては別に確かめる必要があります。
香辛料: 香りの主成分
チャイの香辛料の香りの主成分は、精油の分析で分かっています。どれも精油の試料の分析で、鍋で煮出したときの香りそのものではありません。
- カルダモン: α-酢酸テルピニル(46.1%)とユーカリプトール(31.2%)
- シナモン(カシア): 香りへの寄与が最も大きいのはシナモンアルデヒド
- クローブ: オイゲノール(55.0%)と β-カリオフィレン(32.9%)
- ショウガ: 辛味成分の[6]-ジンゲロールは、水の中で加熱すると[6]-ショウガオールに変わります。
砂糖: 苦味を抑える
水溶液にショ糖を加えると、カフェインやキニーネなど 5 種類の苦味物質の苦味が、子どもでも大人でも抑えられました。苦味のある成分を加えた紅茶の実験では、ショ糖 10% 入りの茶のほうが、消費者が「飲めない」と感じ始める苦味の濃さが高くなりました。砂糖を入れたチャイでは、苦味の感じ方そのものが変わっていると考えられます。
現地のレシピに書かれていること(95 頁を数えた)
研究で決着しない問いについて、毎日チャイを作っている人たちが何を書いているかも見ておきます。kopi+cha は 2026 年 10 月 2 日、インド・パキスタンなどのチャイのレシピ(レシピサイト・料理ブログ・料理家の頁・新聞の料理欄)を、英語・ヒンディー語・ウルドゥー語・ベンガル語で検索して集め、95 頁の書き方を数えました。
先に、この数の限界を書いておきます。
- 検索で上位に出た頁を集めたもので、家庭や店で実際に淹れられているチャイの分布ではありません。英語の頁が 63 頁と 3 分の 2 を占め、ウルドゥー語の頁は 4 頁しか取れませんでした。
- 「インド系」「パキスタン系」は、頁がどの地域のチャイとして書いているかで分けたもので、書き手の住む国ではありません。パキスタン系 21 頁のうち、パキスタン国内からの発信と本文で分かる頁はわずかです。
- 分量は頁の本文を要約して読み取ったもので、原文と突き合わせたのは一部です。目安として読んでください。
内訳はインド系 55 頁、パキスタン系 21 頁、湾岸 7 頁、バングラデシュ系 4 頁、不明 8 頁です。
茶葉を最初に何で煮るか
| 作り方 | 全体(95 頁) | インド系(55 頁) | パキスタン系(21 頁) |
|---|---|---|---|
| 水で茶葉・香辛料を煮てから乳を足す | 66 | 44 | 11 |
| 水と乳を最初から一緒に温める | 9 | 4 | 3 |
| 水を使わず乳だけで煮る | 8 | 0 | 5 |
| 頁の中で複数の作り方を並べる | 3 | 1 | 1 |
| 読み取れない | 9 | 6 | 1 |
水で先に煮る作り方が多数ですが、乳だけで煮る作り方は、今回の頁ではパキスタン系にだけ現れました。理由を書いている頁は少なく、しかも向きが逆です。「水で先に煮ると茶葉の渋みと色が出る」とする頁と、「ドゥードゥ・パッティは乳から始めるべき」とする頁があります。
乳と水の割合(乳と水の量がどちらも書いてある頁)
- 全体(62 頁): 乳 ÷ 水の中央値は 0.67、真ん中の半分は 0.5〜1 でした。水のほうが多いレシピが中心です。
- インド系(41 頁): 中央値 0.67、真ん中の半分は 0.5〜1。
- パキスタン系(12 頁): 中央値 0.9、真ん中の半分は 0.5〜2。水を使わない頁がこれとは別に 3 頁ありました。
- 先に挙げた査読論文の再現条件(乳が水の 4 倍)は、このレシピ群の中では乳の多い側の端に当たります。
乳を入れたあと
- 乳を入れてから沸かす・煮ると書いた頁が 77 頁、乳を入れたら沸かさない(火を止めてから入れる)と書いた頁が 5 頁でした。パキスタン系は 21 頁すべてが、乳を入れてから沸かしています。
- 乳を入れてから煮る時間(範囲で書かれていれば短いほう)は、書いてある 76 頁で中央値 3 分、真ん中の半分は 2〜5 分、最長 10 分でした。
- 沸かす回数を数字で書いた頁は 25 頁だけで、1 回が 6 頁、2 回が 9 頁、3 回が 7 頁、4 回が 3 頁でした。
- 仕上がりの目安には、色(濃いカラメル色・赤褐色など)と、とろみや量の減り方が挙げられていました。
レシピのあいだで割れているのは、水が先か乳が先か、何回沸かすか、どれだけ煮るか、です。これは研究でも決着していない問いと重なります。
淹れる人の 4 つの問いに、いま言えること
チャイを淹れる人がいちばん知りたいのは、次の 4 つだと思います。どれも、正面から比べた研究はまだ見つかっていません。近い条件の研究から言えることと、言えないことを分けておきます。
1. ミルクで直接煮るか、水で煮てからミルクを足すか。 比べた研究はありません。上で数えたレシピでも、水で先に煮るものが多い一方、乳だけで煮るものもあり、理由の向きは逆でした。作り方としては、パキスタンでは少しの水で煮てから乳を加える再現条件(水 1 に乳 4)のほか、水を使わず乳に茶葉を直接入れて煮る作り方もあります。ブータン中央部では乳の中で茶葉を煮出し、モンゴルの乳茶は水で煮出してから乳を足します。茶のポリフェノールがミルクのたんぱく質に強く取り込まれることは、どちらの順番でも起きると考えられますが、味の違いは確かめられていません。
2. ミルクを先に入れるか、後に入れるか。 紅茶で比べた査読研究はありません。英国の王立化学会は、熱い茶に牛乳を注ぐと牛乳の滴が高温に長く触れ、75℃ を超えると起こりやすい乳たんぱく質の変性が進む、と説明しています(測定ではなく専門家の説明です)。近い条件では、インスタントコーヒーに 8℃ の牛乳を加えた日本の研究があり、70℃ で加えた試料は 90℃ で加えた試料より苦味と後味が弱く、甘味が強く感じられました。なお、乳を鍋で一緒に煮るチャイでは、どちらにしても乳は沸騰まで加熱されます。
3. ミルクの脂肪の量で、渋みとコクは変わるか。 渋みを抑える主役はたんぱく質で、脂肪だけを増やしても渋みはあまり下がらない、という向きの結果があります(緑茶カテキンの水溶液での官能評価)。脂肪は粘度となめらかさに効きます。紅茶のミルクティーでの官能評価は見つかっていません。
4. 煮詰める時間で、香ばしさは変わるか。 牛乳を加熱する時間が長く、温度が高いほど、メイラード反応の指標と加熱の香りの成分が増えることは、牛乳単体やコアの研究で一致しています。チャイの鍋の条件で、時間と香ばしさを官能評価した研究は見つかっていません。
自分で確かめるときは
研究の結果から言えるのは、効きそうな要素が少なくとも八つあるということです。乳の割合、乳の種類(たんぱく質と脂肪の量)、茶葉の粒、煮出す時間、煮詰め、水の硬度、香辛料、砂糖です。店の味に近づけたいときは、一度に一つだけ変えて比べると、どれが効いたかが分かります。
- まず、パキスタンの論文の再現条件(茶葉 5 g・水 50 mL・乳 200 mL・砂糖 5 g・4 回沸かす)を基準の 1 杯にしてみる。
- 次に、乳の中身を変える。エバミルクや脱脂粉乳を足すと、たんぱく質と固形分が増えます。
- それから、煮詰める時間を延ばす、細かい CTC の茶葉にする。
- 店に、乳の種類(水牛乳か、牛乳か、紅茶用クリーマーか、エバミルクか)を聞いてみる。
どちらがどちらか分からないようにして飲み比べると、思い込みに左右されずに違いを確かめられます。
各地のチャイの淹れ方の違いは「同じ「チャイ」でも別の飲み物」にまとめています。