ORIGIN — COUNTRY / COFFEE

イエメン

YEMEN

イエメンはアラビカの二次拡散地とされる古い産地で、小規模農家が段々畑でチェリーを育てほぼすべてナチュラル精製で仕上げる。内戦下で輸出は限られ、統一された等級制度も無い。「モカ」は港名・産地名・銘柄名が混用される。

事実

事実出典階層
コーヒー栽培面積は32,984ha(2018年)。undp.orgL2
21 県中 15 県でコーヒーが栽培されるundp.orgL2
ブラア(Bura'a)とダマール(Dhamar)が段々畑の急斜面により特化した産地で、ほかサナア・アムラン・アッダーレ・ハッジャ・アルアフムウェイト・ラフジ・フダイダ・イブでも栽培されるundp.orgL2
段々畑(テラス)での栽培が伝統的で、乾燥地・天水頼みで灌漑インフラは乏しいundp.orgL2
収穫は 10〜12 月に行われ、収穫期間は 2〜3 か月と長く、場所・品種により 6〜10 回に分けて摘むundp.orgL2
1 農家あたりの耕地は平均 0.291ha・コーヒーの木 394 本で、1 農家あたりの生産量は平均 114kgundp.orgL2
単収は 0.57t/ha で、比較対象のマレーシア 3.77t/ha、ベトナム 2.66t/ha より低いundp.orgL2
1 人あたり年間利用可能水量は世界最低水準の 140m³ で、カート(qat)が農地の 15%・利用可能水資源の約 40% を占め、コーヒーと水・土地を奪い合うundp.orgL2
2020/21 会計年度の総輸出額 14.5 億ドルのうちコーヒーは約 1.38%(2,000 万ドル)で、原油が輸出の 85% を占めるundp.orgL2
コーヒー輸出の相手国はサウジアラビア 63%・米国 9.84%・日本 8.2%・スイス 5.79%(金額ベース)undp.orgL2
国際市場価格は 2017 年 5.73 ドル/kg から 2019 年 7.15 ドル/kg に上昇したundp.orgL2
農家は収穫豆を蓄え必要な時にのみ売り、集荷業者が農家から買い付けて卸売業者・輸出業者に渡す。主要な卸売市場はバジェル・フダイダ・アルマンスーリヤ・バイトアルファキーにあるundp.orgL2
流通の粗利率は農家 40〜45%、集荷業者 7〜10%、卸売業者 5〜10%、加工業者 10〜15%、小売業者 15〜20%undp.orgL2
種苗供給は 10 県のナーサリーに限られ、近代的な栽培技術を理解する農家は 6.5% にとどまるundp.orgL2
科学者間で一致する在来系統は Udaini・Dawairi・Tufahi・Bura'ai の 4 系統で、ほかに 14 種類超の地域固有の呼び名が報告されるundp.orgL2
コーヒーは「男性の作物」とみなされることが多く、収益は世帯の男性に渡る一方で労働の多くを女性が担うundp.orgL2
モカ港を通じたコーヒーの商業取引は「1400 年代」に始まったとされるundp.orgL2
World Coffee Research・Istituto di Genomica Applicata・CIRAD が 2020 年、736 のアクセッション(CATIE 648・イエメン 88)を遺伝解析し、イエメンはエチオピア由来アラビカの二次拡散地でありながら独自だが限定的な遺伝的多様性を持つと結論したworldcoffeeresearch.orgL2
Qima Coffee・RD2 Visionが148農園を対象にDNAフィンガープリンティングを行い、地方名(「Udaini」等)と遺伝的系統の間に相関は無いと結論したgcrmag.comL3
イエメンは国際コーヒー機関(ICO)の非加盟国で、コンテナ(約 18t)を満載しにくく多くが航空輸送されるroyalcoffee.comL3
16 世紀にモカが国際コーヒー貿易の中心地として台頭し、17〜18 世紀初頭には高地産のコーヒーがモカ港経由で輸出されたen.wikipedia.orgL4
20 世紀初頭(1911 年まで)に輸出市場はモカ港からアデン・ホデイダへ移行し、現在の中心的な卸売市場はモカから北へ約 140km のバイトアルファキーにあるen.wikipedia.orgL3
2026 年 8 月 10 日にフーシ派がモカ港を制圧したgulfnews.comL3
統一された等級制度は無く、産地名と外観・欠点数・粒サイズを組み合わせた内向けの格付けが中心である。—L4
コーヒー栽培の標高はおおむね1,500〜2,500mである。—L4
ハラズはサナアとフダイダの間に広がる山岳地域で、イエメンのコーヒー産地として知られる。en.wikipedia.orgL3
「モカ」は歴史的に、イエメン産でモカ港(アル・モカ)経由で輸出されたコーヒーを指す名称だったとされる。coffeestudies.comL3
日本の表示規約の区分では、「モカマタリ」はイエメンで生産されたアラビカ豆をいう(バニーマタルの名は規約に無い)。ajcft.orgL2

百科

産地の位置づけ

イエメンは、コーヒーの原産地であるエチオピアから見て「二次的な拡散地」に位置づけられる古い産地です。分子系統の研究では、アラビカ種が生まれた一次中心はエチオピアと南スーダンの山地林とされ、イエメンはそこから伝わった系統が独自に分化した場所とされています。歴史的にはモカ港を通じた貿易でヨーロッパにコーヒーが広まった起点の一つでもあり、「モカ」の名はこの港に由来します。一方で、国際コーヒー機関(ICO)には加盟しておらず、主要生産国向けの年次統計(USDA の Coffee Annual 等)も出されていないため、生産量や輸出量の一次資料は乏しく、資料によって数値が食い違うことが少なくありません。

産地と標高

コーヒー栽培は21県中15県で行われますが、段々畑の急斜面を生かした産地として特に知られるのがブラアとダマールです。このほかサナア、アムラン、アッダーレ、ハッジャ、アルアフムウェイト、ラフジ、フダイダ、イブでも栽培されています。日本の商品名によく出るのは、サナア西方の山脈に段々畑が広がるハラーズ(ハラズ)、サナア南西の高地区バニーマタル(マタリ)、その周辺のハイマ、イスマイリ、そしてサナア市周辺一帯を指すサナニです。栽培標高はおおむね1,500〜2,500mとする解説が多く、産地によってはさらに高い場所も語られますが、産地ごとの正確な標高帯を裏付ける一次資料は確認できていません。栽培は乾燥地での天水頼みで、灌漑設備は限られます。

生産と流通の仕組み

イエメンのコーヒーは、平均耕地0.291ha・コーヒーの木394本という小規模な農家が中心で、1農家あたりの生産量は平均114kgにとどまります。単収は0.57t/haで、東南アジアの主要生産国と比べて低い水準です。収穫は10月から12月にかけて行われますが、収穫期間自体は2〜3か月と長く、場所や品種によって6〜10回に分けてチェリーを摘みます。農家は収穫した豆を蓄え、必要な時にだけ売る「現金銀行」のような使い方をし、集荷業者が農家から買い付けて卸売業者・輸出業者へ渡す多段階の流通が一般的です。主要な卸売市場はバジェル、フダイダ、アルマンスーリヤ、バイトアルファキーにあります。流通の各段階の粗利率は、農家40〜45%、集荷業者7〜10%、卸売業者5〜10%、加工業者10〜15%、小売業者15〜20%という報告があります。種苗の供給は10県のナーサリーに限られ、近代的な栽培技術を理解する農家は6.5%にとどまるとされ、生産性の向上を難しくしている要因の一つです。コーヒーは「男性の作物」とみなされることが多く、収益は世帯の男性に渡る一方で、栽培や収穫の労働の多くを女性が担っているという指摘もあります。

規格

ケニアのスクリーンサイズやエチオピアの欠点数等級のような、国際標準に基づく統一された等級制度は無く、産地名と外観・欠点数・粒サイズを組み合わせた内向けの格付けが中心とされています。日本の商品名では「No.9」「No.8」といった数字付きの等級名や、「アールマッカ」という最上級を示すとされる呼び名が使われますが、これらの基準を定めた公的な規定文書は確認できていません。産地名そのもの、とりわけ「マタリ」が高い評価と結び付けて語られることが多いものの、格付けの方法自体は明確でなく、公的な等級規定は確認できていません。

精製

イエメンのコーヒーは伝統的にそのほとんどがナチュラル(乾式)精製で、収穫したチェリーを果肉が付いたまま天日で乾燥させます。水資源が乏しく水洗処理に向かないことも、ナチュラルが主流である背景の一つです。精製の過程で生じる果肉(コーヒーチェリーの皮)は「ケシル(qishr)」と呼ばれ、スパイスを加えた飲料として加工され、国内市場向けに複数の製品があります。

品種

イエメンには14種類を超える在来系統の呼び名が報告されていますが、科学者間で一致するのはウダイニ(Udaini)、ダワイリ(Dawairi)、トゥファヒ(Tufahi)、ブライ(Bura'ai)の4系統で、残りは地域固有の呼び名とされます。2020年にWorld Coffee Research・Istituto di Genomica Applicata・CIRADが実施した遺伝解析では、CATIEの648系統とイエメンの88系統を含む736のアクセッションを調べ、イエメンのコーヒーはエチオピア由来アラビカの二次拡散地の系統として、独自だが限定的な遺伝的多様性を持つと結論づけられました。同じ2020年、Qima CoffeeとRD2 Visionによる148農園を対象にしたDNAフィンガープリンティングでは、農家が単に「ウダイニ」と呼んでいるコーヒーの遺伝的内訳がYemenia系統56%・Typica Bourbon系統23%・SL34系統21%に分かれることが分かり、農家の呼び名と遺伝的な系統は必ずしも一致しないことが示されました。日本の商品名では「イエメニア」という表記がまれに見られます。

典型として語られる香味

イエメン産のコーヒーの香味として一般に語られるのは、ワインやチョコレートを思わせる複雑な甘さ、土や薬草を思わせる質感、スパイス的な後味です。これは専門メディアの産地解説でくり返し語られる表現であり、個々のロットの評価ではありません。実際の香味は、精製・農園・収穫年によって大きく変わります。

「モカ」の混用

「モカ」という語は、(1) イエメン紅海沿岸の港湾都市モカ港(アル・ムハー)という地名、(2) 16〜18世紀にこの港を経由して輸出された歴史的なイエメン産コーヒー全般を指す通称、(3) 現代ではコーヒーとチョコレートを合わせた飲み物の商品名、という複数の意味で使われます。伝承では14世紀にスーフィー教団の指導者がモカの町を興したとされ、モカが国際コーヒー貿易の中心地として台頭した時期は、16世紀とする資料と17世紀中盤とする資料があり、17〜18世紀初頭にはイエメン高地産のコーヒーがモカ港経由で世界に運ばれました。港の名前がそのままコーヒーの通称になったのはこの時期です。20世紀初頭(1911年まで)には輸出市場がモカ港からアデン、ホデイダへ移行し、現在の中心的な卸売市場はモカから北へ約140kmのバイトアルファキーにあります。モカ港自体は1955年に整備された小規模な港で、日本の商品名に残る「モカハラズ」「モカマタリ」は、この歴史的な通称と産地名を重ねた表記です。

内戦下の状況

イエメンでは2015年以降の内戦下で、水資源をめぐりコーヒーは水と土地を大量に消費する嗜好品カート(qat)との競合にさらされています。カートは農地の15%、利用可能な水資源の約40%を占めるとされ、コーヒー栽培の拡大を難しくしている要因の一つです。輸出面でも、銀行が紛争地域を高リスクとみなし融資を制限すること、コンテナを満載しにくく航空輸送に頼らざるを得ないことが、コーヒーの輸出をいっそう困難にしています。2026年8月10日にはモカ港がフーシ派によって制圧されるなど、港の支配者が交代する状況が続いており、輸出の経路や体制は流動的です。

日本との関係

イエメンのコーヒー輸出相手国は金額ベースでサウジアラビアが63%と最も多く、米国9.84%に次いで日本が8.2%を占め、スイス5.79%が続きます。日本の生豆卸やロースターの一部がイエメン産のコーヒーを扱っており、商品名には産地・地区名に加えて精製や生産者にまつわる情報が書かれることが多くなっています。一方で、全日本コーヒー協会が公表する生豆輸入量の上位国ランキングにはイエメンが挙がっておらず、他の主要生産国と比べると輸入量自体は少ないとみられます。

買い方の手引き

商品名の読み方と「モカ」の位置づけ

日本の店の商品名では「イエメン」の後に「モカハラズ」「モカマタリ」のように、港の通称「モカ」と産地・地区名を重ねた複合語が付くことが多くなっています。次に精製(ほとんどがナチュラル)、ときに生産者名や品種名(イエメニア等)が続きます。「モカ」はもともとモカ港という地名で、産地に付く複合語(モカハラズ=ハラーズ地区産)、そして歴史的な銘柄の通称という複数の意味で使われるため、単独の「モカ」だけでは産地は特定できず、続く地区名(ハラーズ、バニーマタル、マタリ、ハイマ、サナニ等)が実際の産地を示します。

等級表記と旬

「No.9」「アールマッカ」のような等級名も流通しますが、粒サイズや欠点数を規格化した公的な基準ではなく、店や輸出業者ごとの慣例的な呼び方です。収穫は10月から12月に集中し、天日でのナチュラル精製に時間がかかるため到着はさらに遅れます。内戦下の物流事情もあり、入荷は不定期で数量も限られる傾向があります。

観測

コピチャ観測所が公開情報から機械収集した商品のうち、この項目に一致するもの。価格は在庫ありの行の最安 100g 換算。

規格別の相場(生豆・商社規格が読める銘柄だけ)

規格銘柄店100g 中央値
イエメン AA11—ボードで見る →

観測した商品

59銘柄 / 13店 / 在庫あり 15 / 100g中央値 ¥767

松屋珈琲イエメン マタリ No.9¥230 /100g在庫あり2026-10-12

ほか29銘柄。

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