煎茶と玉露と抹茶。値段も味もまるで違うこの3つは、六大茶類でいえば全部同じ緑茶——摘んですぐ蒸して酸化を止めた不発酵茶です。では何が違いを生むのか。答えは畑にあります。収穫前に茶園を覆うかどうか、何日覆うか。この記事では「覆い(被覆栽培)」を軸に、日本茶の3つの顔を整理します。

鍵は「テアニン」と日光の関係

茶の旨み成分テアニンは根で作られ、葉に運ばれます。葉が日光を浴びると、テアニンは渋み成分のカテキンへと変化していきます。つまり——

  • 日光をたっぷり浴びせる → カテキンが増え、爽やかな渋みの茶に
  • 収穫前に覆って日光を遮る → テアニンが残り、とろりとした旨みの茶に

覆いの日数がそのまま「旨みと渋みのバランス」のダイヤルになっているわけです。

3つの茶の比較

煎茶 玉露 抹茶
被覆 なし(露天栽培) 摘採前に約20日 摘採前に約20日以上
加工 蒸して揉んで乾燥 蒸して揉んで乾燥 蒸して揉まずに乾燥(碾茶)→石臼で粉に
味の傾向 爽やかな渋みと香り 濃厚な旨み・海苔のような香り(覆い香) 旨みと苦味の凝縮。葉ごと全部飲む
湯温の目安 70〜80℃ 50〜60℃ 70〜80℃(点てる)

覆いをした茶に共通する海苔や青のりを思わせる香りは**覆い香(おおいか)と呼ばれ、玉露・抹茶の個性の核です。また抹茶だけは製法が根本的に違い、揉まずに乾燥させた碾茶(てんちゃ)**を石臼で挽いて、葉そのものを丸ごと飲む——だから成分の摂取量も桁違いになります。

中間の茶もある — かぶせ茶と深蒸し

  • かぶせ茶: 覆い期間が1週間前後の「煎茶と玉露の中間」。玉露ほど高くなく、旨みはしっかり。実は観測所のフィードにも登場する実在の流通カテゴリです
  • 深蒸し煎茶: 覆いではなく蒸し時間を長くした煎茶。渋みがまろやかになり水色が濃くなる、静岡発の製法

つまり日本茶の個性は「覆いの日数」×「蒸しの深さ」の2軸でほぼ説明できます。

品種も効いている

同じ栽培・加工でも品種で味は変わります。日本茶の大黒柱は全国シェア過半のやぶきた。旨み系では「天然玉露」の異名を持つあさつゆ、その系譜を継ぐさえみどりが高級茶の主力です——覆いをしなくても旨みが強い品種があるから「天然玉露」なのです。品種の系統は品種図鑑で辿れます。

淹れ分けのコツ — 湯温がすべて

旨み(テアニン)は低温でも溶け出しますが、渋み(カテキン)は高温で一気に出ます。だから——

  • **玉露は50〜60℃**でじっくり: 渋みを出さず旨みだけを引き出す
  • 煎茶は70〜80℃: 旨みと爽やかな渋みのバランスを取る
  • 熱湯で淹れた玉露は「高い煎茶」になってしまう、と覚えておくと失敗しません

具体的な銘柄ごとの淹れ方は茶葉図鑑(例: 八女煎茶)に記録しています。

まとめ

  • 3つとも同じ緑茶。違いは覆いの日数加工(揉むか・挽くか)
  • 覆い=日光遮断=テアニン(旨み)を守る技術
  • 淹れ分けは湯温が9割。玉露は低温、煎茶は中温

「畑の覆い」というたった一つの技術が、煎茶・かぶせ茶・玉露・抹茶という価格帯も用途も違う世界を生んでいる——日本茶は、栽培がそのまま味の設計になっている飲み物です。