玉露・かぶせ茶・碾茶(抹茶の原料)は、摘む前の茶園を資材で覆い、光をさえぎって育てた葉から作ります。この記事は、覆いの種類を一枚で並べたうえで、光をさえぎると成分・葉の色・香り・温度・収量に何が起きるかを、試験の条件ごと整理します。

数値はすべて kopi+cha の知識の台帳で原典を確かめた主張から、そのまま載せています。試験の条件(品種・遮光率・日数・葉の段階)が付いているものは、条件ごと書きます。研究や資料で割れているものは、割れていると書きます。

覆いの種類を一枚で並べる

茶 覆う期間 遮光率・資材(資料の値)
玉露 一番茶の新芽が伸び出した頃から 20 日程度 よしず棚などの資材
かぶせ茶 摘採前 7 日程度 藁や寒冷紗などの資材。遮光率 60% 以上の資材を使う(三重県の整理)
碾茶 摘採期前に 2〜3 週間程度 覆下茶園。直がけでは遮光率 85% の黒寒冷紗を、新芽の 1〜2 葉開葉期までに掛け始め、一番茶で 20 日間以上、二番茶で 14 日程度
白葉茶(参考) 2 葉開葉期から 2 週間以上 遮光率ほぼ 100% の資材を直がけ。新芽は黄白色になり、10a 当たり収量は 200〜300 kg と通常の半分以下

かぶせ茶の期間は 7 日程度で、玉露の 20 日程度より短いとされます。碾茶の期間は、2〜3 週間程度とする基準があり、玉露の 20 日程度と重なります。一方で、玉露の 20 日前後より長いとされる資料もあり、ここは資料で割れています。

三重県のかぶせ茶の整理では、方法が三つ並びます。

方法 遮光率 掛け始めと期間
直接被覆(中級かぶせ) 80〜85% 新芽の 2.0〜3.0 葉期から 10〜15 日
棚式二段被覆(上級かぶせ) 上段 70〜80%、下段 70〜80% 上段は 2.0 葉期から 7〜10 日、下段は 3.0〜3.5 葉期から 3〜5 日
玉露に近いかぶせ茶 二段被覆で 70% 前後から 95% 前後へ 新芽の 2 葉期ごろから 14 日ほど

被覆が 15 日を超える長期になる場合は、直接被覆より被覆棚が向くとされます。煎茶の色沢を良くするねらいの被覆は、摘採前 5 日前後です。

京都府の二段被覆棚は、上段(遮光率 80% 程度)を新芽の 1 芯 1〜1.5 葉期に掛け、8〜10 日後に下段を足して 98% 程度にします。棚は上段 2.4 m・下段 2 m です。三重県茶業研究室が考案した直掛け段階被覆は、遮光率 85% で始めた被覆の収穫 5 日前に、同じ資材を 1 枚重ねて遮光率を約 98% にする方法です。

光をさえぎると成分はどう動くか

日光下と覆いの下の代謝

日光下の茶葉では、テアニンがグルタミン酸とエチルアミンに代謝され、エチルアミンの炭素が主にカテキンへ変わります。被覆は、テアニンの分解とカテキンの合成を抑えます。玉露などの被覆栽培が、アミノ酸からカテキンへの生成を抑えて渋みの少ない味わいにするとされるのは、この流れの説明です。

テアニンは茶の全遊離アミノ酸の 4 割以上を占める旨味成分です。玉露のうま味は、テアニンに加えグルタミン酸とクエン酸が重要な成分であると、味の除去実験で考察されています。

遮光率と期間

遮光率 75% 以上で 20 日間被覆すると、新芽のテアニン含有量は無遮光の茶より多くなります。同じ実験で、遮光率が高い条件ほど新芽のエピガロカテキン含有量は少なくなり、その差は被覆期間が長くなるほど大きくなりました。

短期の強い遮光

遮光率 95% で 4 日被覆した新芽の試験(2 品種)です。

品種 テアニン(被覆前 → 4 日後、mg/g) 12 日後(mg/g) EGC(被覆前 → 4 日後、mg/g)
Xiangfeicui 10.55 → 11.89 10.90 32.52 → 24.87
Jinxuan 5.10 → 7.28 7.74 19.51 → 13.00

EGCG は 4 日後には両品種とも有意に変わらず、12 日後に減りました。

テアニンの合成にかかわる遺伝子は、遮光下で品種と部位ごとに違う動きをしました。CsGS2 は 2 品種の葉で発現が下がり、CsGS1.1 は Jinxuan の葉で、CsTSI は Xiangfeicui の根で発現が上がりました。

テアニンは根で作られ、木部液で葉へ運ばれます。水耕栽培の 1.5 年生の茶苗では、テアニンは根で最も多く 3414 μg/g で、新芽・茎の各部の値より高い値でした。茎の木部液ではアルギニンが 20〜45% を占め、グルタミン酸 10〜26%・テアニン約 11〜19%・グルタミン約 6〜19% が続きます。根で作られるテアニンのうち、木部液で葉へ運ばれるのは一部で、葉でも CsGSIa がテアニンの合成に関わり、葉で発現を抑えるとテアニンが低くなりました。

遮光は茶の根でエチルアミンを増やし、テアニン合成経路とテアニン輸送遺伝子を活性化しました。茎では CsAAP2・4・5・8 の発現が上がりました。

前提と逆の動き

覆いの下ではテアニンの合成にかかわる CsGS2 の発現が下がります。合成の遺伝子の働きが下がるなら、テアニンも減ると読めますが、上の 4 日の試験では、テアニンは 2 品種とも増えました。テアニンが部位ごとに違う動きをすることは、次の「資料で割れていること」でも触れます。

色つきネットの下で

遮光率 50% の黒・青・赤のネットは、春・夏・秋のいずれも、無遮光より茶葉の L-テアニンを増やしました。赤ネットで最も高い傾向でした。

黒ネットの遮光では、全カテキン類は光が弱いほど減りました(95% で 90.1 mg/g、無遮光より 38.7% 少ない)。青・黄・赤のネットでは 112.0〜137.0 mg/g で、黒 95% より多い値でした。赤ネット(遮光率 95%)の下の茶葉の EGCG は 92.4 mg/g で、黒 95% の 64.9 mg/g・無遮光の 85.3 mg/g より高く、赤色光が EGCG の蓄積を促す可能性が示されました。

二番茶の荒茶の成分

二番茶の荒茶(乾物)で、0.5 葉期から被覆した区は、カテキン類が 8.5・10.5% と、無被覆の 12.3・12.8% より低くなりました。カフェインは 2.4・2.7% と、無被覆の 1.8・1.9% より高くなりました。それぞれ 2 年分の値です。

遮光の下でカテキン類のうち EGC と EC は下がり、EGCG と ECG はほぼ変わりませんでした。EGC の減少は、2 葉期被覆の 95% 一定で最も大きく、二段階では小さい傾向でした。

葉の色と覆い香

クロロフィル

被覆栽培ではクロロフィル含量が増え、碾茶・抹茶の葉は濃い緑色になります。ただし、遮光率が極めて高い場合はクロロフィルが低下して淡緑になります。白葉茶が遮光をほぼ 100% にするのはそのためです。

増える仕組みとして、遮光で光シグナル因子 CsHY5 の発現が下がり、CsHY5 が抑える CsPORL-2(クロロフィル合成酵素)の発現が上がると考えられています。茶の切り枝で光量を 252 から 3.36 μmol m−2 s−1 へ下げると、クロロフィルが増えました。遠赤色光の多い条件(R:FR=0.1)では、クロロフィルが有意に減りました。

「やぶきた」の一番茶を 2 葉期から遮光率約 80〜85% の資材で直接被覆した試験では、クロロフィル a は 15・20・25 日間の被覆で 579・634・620 mg/100 g でした。

覆い香

被覆栽培で前駆物質の MMS(メチルメチオニンスルフォニウム)が増え、製造中の熱で MMS が分解されて DMS(ジメチルスルフィド)が生じ、覆い香になると考えられています。覆い香には DMS のほか、カロテノイド由来のヨノン系物質も関わるとの報告があります。玉露の揮発成分のガスクロマトグラフィー分析では、DMS が非常に大きなピークになります。

  • 被覆栽培した生葉を 20℃ 以下で 28〜48 時間貯蔵してから製茶すると、摘採直後に製茶した場合より覆い香が強く感じられ、DMS と MMS も増えました。
  • 二番茶芽を 0.5〜3.5 葉開葉期から被覆した試験で、荒茶の DMS は、2007 年は被覆開始が早いほど多い傾向で、2008 年は 1.5 葉区が最も多くなりました。
  • 市販の玉露では、DMS 含有量が価格・品質・香気の評価と正の相関を示し、相関係数は順に 0.517・0.637・0.572 でした。

覆いの下の温度

資材の色・張り方・段数で、覆いの下の温度は変わります。

遮光率 50% の黒・青・赤のネットの下で、晴天日の 10〜13 時に測った空気温は、36.78℃ から 34.59〜34.70℃ に、葉温は 38.47℃ から 34.68〜35.39℃ に下がりました。同じ測定で、光合成有効放射は対照の 1,597.73 μmol m−2 s−1 から 530〜724 に下がり、葉温は黒・青・赤のネットの間で有意な差がありませんでした。

冬は別の動きです。黒色ポリエチレンで 30・60・75% を遮光した茶園の 12 月の最低気温は −10.6〜−11.2℃ で、無遮光の −10.5℃ より高くありませんでした。11 月は −1.9〜−2.4℃ と、無遮光(−2.6℃)より 0.2〜0.7℃ 高くなりました。

京都府の試験では、棚の作りで差が出ました。

  • 化学繊維資材を一段で掛ける固定の被覆棚(昭和 38 年に開発)は、被覆内の温度が従来の被覆法より高く、新芽の生育と硬化が早くなりました。
  • 上段と下段を分けた二段被覆棚は、被覆内の温度を低く保てました。
  • 昭和 34 年からの試験で、寒冷紗とこもを被覆すると、無被覆区に対して樹冠面の温度が 1.1℃ 高くなりました。

資材を葉に直接掛ける直がけ被覆では、風によるすれや、資材の温度上昇による葉焼けを生じることがあります。

段階的な覆い — 三重県の試験の表

「やぶきた」を 14 日被覆した試験です。遮光率 85% 一定、95% 一定、二段階(85% を 9 日後に重ねて約 98%)の 3 区を、被覆を始める葉の段階(2 葉期・3 葉期)ごとに並べます。

荒茶の遊離アミノ酸(mg/g)

被覆開始 85% 一定 95% 一定 二段階
2 葉期 46.8 64.3 57.5
3 葉期 40.2 48.2 53.6

生葉収量(kg/10a)

被覆開始 85% 一定 95% 一定 二段階
2 葉期 405 316 437
3 葉期 656 572 659

10a 当たりの遊離アミノ酸収量(kg)

被覆開始 85% 一定 95% 一定 二段階
2 葉期 3.78 3.72 4.79
3 葉期 5.30 5.10 6.77

2 葉期の被覆では、荒茶の遊離アミノ酸は 95% 一定が 64.3 で 3 区のうち最も多く、10a 当たりの遊離アミノ酸収量は二段階が 4.79 kg で最も多くなりました。3 葉期の被覆では、荒茶の遊離アミノ酸も 10a 当たりの収量も二段階が最も多い値でした(53.6 mg/g、6.77 kg)。

収量と樹勢

覆いは、光をさえぎる分、収量と樹の勢いに影響します。

二番茶芽を 0.5 葉開葉期から被覆すると、生葉収量は 2007 年 352・2008 年 436 kg/10a で、無被覆(778・995 kg/10a)より少なくなりました。二番茶の新芽長は、0.5 葉期から被覆で 3.70・3.35 cm、無被覆で 6.53・5.87 cm と短く、新芽数と百芽重も被覆の開始が早いほど少なくなりました。

「やぶきた」の一番茶を 2 葉期から直接被覆した試験では、15・20・25 日間の収量は 630・949・1197 kg/10a、全窒素は 5.7・5.2・4.7% でした。

被覆下の新葉は、葉が薄く、面積が広く、形が丸くなり、比葉重(葉面積当たりの葉重)が低くなります。

被覆が長く、多収摘採や茶期の遅れが重なると、次の茶期の生育不良や減収を招くことがあります。一方、遮光率ほぼ 100%・約 2 週間の短期強遮光では、翌年の一番茶の収量に無被覆との差がありませんでした。

遮光率 85% で一番茶 30 日・二番茶 20 日の被覆を 6 年続けた碾茶園は、一番茶の新芽数が 31.7 本/400 cm²、理論収量が 684.4 kg/10a で、無被覆の 62.7 本・1526.7 kg/10a より少なくなりました。85% 遮光を繰り返した茶樹は、光合成能が下がり、非構造性炭水化物が減りました。6 年連続被覆の圃場では、盛夏の樹冠温度が数℃ 高くなりました。

碾茶の作り方

碾茶は、被覆栽培の葉を摘採後すぐ蒸し、揉まずに専用の碾茶乾燥機で高温の熱風により急速に乾燥させて作ります。揉捻の工程を経ずに蒸熱の後そのまま乾燥させる点で煎茶と異なります。出荷の直前に茶臼等で挽いて微粉末状にすると、抹茶になります。

碾茶乾燥機は高価なため、煎茶用の機械で乾燥した葉も抹茶の原料に使われるとされます。荒茶・碾茶は水分活性が 0.60 以下となり、病原微生物が育たず、常温で保管できるとされます。

宇治などの歴史ある産地の碾茶は、碾茶専用品種・棚被覆栽培・レンガ炉製茶で作られるとされます。静岡では、煎茶用品種に直接被覆する簡易な方法が研究されました。

産地の側では、碾茶の令和 6 年産の荒茶生産量は鹿児島県が全国 1 位、京都府が 2 位です。全国の生産量は、平成 26 年の 1,969 トンから令和 6 年に 5,336 トンへ増えました。玉露は令和 6 年産で三重県が全国 1 位、かぶせ茶は三重県が 1 位で、2024 年産は 1,138 t(主産県計の約 59%)でした。

資料で割れていること・まだ分かっていないこと

  • 覆いの下のテアニン。 遮光下のテアニンは、茎で増え、葉で減り、根では変わらなかったとする報告がある一方、被覆した新芽で増えたとする報告もあり、結果が割れています。どの条件で食い違うかは、台帳で確かめられていません。
  • 覆いの下の EGCG。 遮光率 50% の黒・青・赤のネットで、春と秋に無遮光より増えたとする報告と、遮光率 95% の黒ネットで無遮光より減ったとする報告があり、割れています。上で並べた 95% の試験でも、赤ネットでは増え、黒ネットでは減りました。
  • 碾茶の覆う期間。 玉露と重なるとする基準と、玉露より長いとする資料があり、割れています。
  • 節間の長さ。 覆いで新芽の節間がどう変わるかは、台帳で見つかりませんでした。

自分で確かめるときは

覆いの有無で同じ品種の茶を並べて飲み比べるのは、条件を揃えにくい比べ方です。覆いの長さ・遮光率・摘む時期・製茶の方法がすべて茶ごとに違うからです。比べるなら、同じ産地・同じ年の玉露とかぶせ茶、あるいは煎茶と碾茶を、同じ湯温・同じ時間で淹れ、旨味と渋みの出方の違いを見るところから始められます。上の試験では、覆いの下でテアニンは増える方向、EGC と EC は下がる方向に動いています。

産地の側から読むなら、かぶせ茶の産地は「三重」に、碾茶と玉露の産地は「京都」と「鹿児島(知覧)」に、蒸す・揉む・乾かす工程は「茶の製法で何が起きているか」にまとめています。