ペルーのコーヒーは、コロンビアのように県名や農園名を前に出す商品もあれば、県名がまったく出ず「有機」「JAS認証」「協同組合」とだけ書かれた商品もあります。同じ南米でも、コロンビアが「山と等級」で読める産地だったのに対し、ペルーは「認証と組織」で読む場面が多い産地です。この記事ではアンデス東斜面の産地の位置関係と、この産地でよく語られる有機・フェアトレードという語の実際の出方、G1やSHBという等級の読み方を整理し、国内の棚の実測につなげます。産地全体を見渡す記事がペルーを1章で扱ったのに対し、ここでは国の中を歩きます。

ペルーはどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 南米ではブラジル・コロンビアに次ぐ規模とされますが、世界順位を示す具体的な数字は確認できていません。USDAの2026年6月版の予測ではMY2026/27の生産量は478万袋(60kg換算、前年比+0.3%)で、MY2025/26は476.4万袋、MY2024/25は412万袋でした
  2. 生産の中心は小規模農家です。1戸あたり平均1haをやや超える規模の農家が20万戸超を占め、生産量の70%超を担うとされますが、この数字自体は未確認です。業界団体のJunta Nacional del Café(JNC)は1993年設立で、62の生産者組織が加盟し、14の「コーヒーゾーン」にまたがる25,000超の会員家族を束ねています
  3. 輸出比率が高い産地です。MIDAGRI(ペルー農業灌漑省)の発表では国内生産の95%が輸出向けで、USDAの2026年6月版予測ではMY2026/27の輸出量は455.4万袋。輸出先はMY2025/26で米国32%・ドイツ16%・ベルギー11%とされます

東斜面で読む産地の地図

ペルーのコーヒーはアンデス山脈東斜面に沿って帯状に広がっています。World Coffee Researchによれば国内24県のうち17県がこの東斜面沿いの産地です。MIDAGRIはサンマルティン・カハマルカ・フニン・クスコ・アマソナスの5県を主要生産県とし、ほかにウアヌコ・パスコを含め全体で16県に及ぶとしています。USDAの2026年6月版の記述では、産地別のシェアはカハマルカ22%・サンマルティン20%・フニン19%・アマソナス15%とされます(年次の明記なし)。

これを大きく3つの帯にまとめると、次のようになります。

区分 主な県 位置 標高
北部 カハマルカ・アマソナス・サンマルティン 国土の北寄り、エクアドル国境に近い側のアンデス東斜面 未取得
中部 フニン(チャンチャマヨ) 国土のほぼ中央、リマから東へ入ったセルバ(森林地帯) 未取得
南部 クスコ・プーノ 国土の南東、ボリビア国境に近い側 未取得

(標高帯の具体的な数値は、資料によって900〜2,000m・1,000〜2,000mなど幅があり、資料の範囲では確定できないため「未取得」としています。クスコ県のインカワシ渓谷に限っては2,000〜2,400mの雲霧帯という記述がありますが、L4のため参考にとどめます)

北部3県(カハマルカ・アマソナス・サンマルティン)で全国シェアの半分を超え、中部のフニン(チャンチャマヨ)が続きます。南部のクスコ・プーノは、後述するインカゲイシャや品評会文脈で名前が挙がる県です。

チャンチャマヨという地名

中部フニン県のチャンチャマヨは、ペルーコーヒーの中で歴史の古さがよく語られる産地です。19世紀後半に欧州系移民が入植し、20世紀初頭には英国資本のプランテーション経営も入りました。両世界大戦後、地主が土地を売却・分配して小農への転換が進み、小農は小規模協同組合を組織するようになったとされます。1970年代には輸出コーヒーの80%を小規模協同組合が担うに至った、という記述もあります。国内の棚で「チャンチャマヨ」という語を単独で見かけたら、フニン県のこの産地を指しています。

「マチュピチュ」は産地名ではない

観測した商品名には「マチュピチュ」を冠したものが10件・5店あります(2026-09-13時点)。これは世界遺産の観光地名を冠した銘柄名で、マチュピチュ遺跡の周辺でコーヒーが栽培されているわけではなく、輸出業者や店の付けた銘柄名と見たほうが正確です。

名前のつまずき — 「有機」「協同組合」が産地名の代わりになる

ここがペルーで一番つまずくところです。コロンビアやインドネシアの商品名が県名・島名を軸に組み立てられるのに対し、ペルーは認証と組織の名前で語られる場面が多い産地です。

Cámara Peruana del Café y CacaoとWorld Coffee Researchは、ともにペルーを「認証オーガニック・フェアトレード・アラビカの世界最大級の輸出国」と位置づけています(いずれもL1・L2の一次情報)。有機認証面積は約9万haで、USDAとCámara Peruana双方の発表がほぼ同水準を報告しています。

国内の観測でもこの傾向は数字に出ています。2026-09-13時点の観測では、商品名に「有機」を含む銘柄が13件・7店。これは県名の見出し語であるカハマルカ(6件)やアマソナス(4件)、産地名のチャンチャマヨ(3件)よりも多い件数です。「フェアトレード」は1件・1店にとどまりますが、「農園」9件・6店、「協同組合」3件・2店と、組織や制度の名前で売られる商品がまとまった数あります。県名を書かず、認証や組織の名前だけで商品名を組み立てる店が一定数あることが、この観測から読み取れます。

ゲイシャが焙煎豆の相場を押し上げている

観測ではもう一つ、価格面で目立つ動きがあります。焙煎豆の100g換算の中央値は¥2,562(12件)です。

この中央値を押し上げている側にいるのが、商品名に「ゲイシャ」を含む銘柄です。ゲイシャ表記は9件・8店で、うち焙煎豆が6件・生豆が3件。焙煎豆の中央値は¥2,965、生豆の中央値は¥686と、ペルー全体の焙煎豆中央値¥2,562・生豆中央値¥318をどちらも上回ります。焙煎豆12件のうち6件をゲイシャが占めており、少ない母数の焙煎豆区分の相場がゲイシャの価格帯に引っ張られている構図です。これは味の評価ではなく、観測された価格の分布としての事実です。

なお、クスコ県ラ・コンベンシオン郡インカワシ渓谷では、通称「インカゲイシャ」と呼ばれるSL-09という系統が知られています。1930年代にケニアのスコット農業研究所が単一樹選抜した系統に由来するとされ、2024年12月に仏の研究所によるDNA鑑定でゲイシャとは別系統と判定されたという記録があります(いずれも未確認)。商品名の「ゲイシャ」表記が実際のゲイシャ種を指すか、このSL-09系統を指すかは、題名だけでは区別できない場合があります。

規格の読み方 — G1、SHBはあるがペルー固有の規格は未確認

ペルーの商業等級は、Grade 1(G1)を最上位とし、ほかにHB、MCM(Machine Cleaned Mejorado)、Grade 2、Grade 3・Mix Plus・Peruvian Mixといった名称が並ぶとされます。標高帯に基づく等級名としてSHB(Strictly Hard Bean)・HB(Hard Bean)もありますが、しきい値の標高やスクリーンサイズの具体的な数値は資料によって異なり、本文で確定できる一次資料は確認できていません。

ペルー固有の技術規格(NTP)についても、本記事の材料の範囲では条文本文を確認できておらず、「未確認」とだけ書いておきます。

観測では、商品名に「G1」(G-1)を含む銘柄が18件・7店、「SHB」を含む銘柄が3件・1店で、等級を書くならG1という表記が主でした。生豆と焙煎豆を合わせても件数は少なく、標高等級を前面に出す売り方は主流ではないようです。

精製の読み方

ペルーの精製はウォッシュトが標準です。観測では商品名に「ウォッシュト」を含む銘柄が16件・8店で、生豆13件・焙煎豆2件。ナチュラルは1件、ハニーは0件でした。商品名に精製が書かれていない銘柄が多数を占めており(102件中、ウォッシュト・ナチュラル・ハニーいずれにも当たらない銘柄が大半)、精製そのものより産地・認証・組織の名前を前に出す商品が多い産地だと分かります。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内の店と楽天市場の出品者のうち、産地がペルーのコーヒー(ブレンドを除く)は102銘柄・27店でした(2026-09-13時点)。内訳は生豆57・焙煎豆32・その他(生豆卸の焙煎サービス等)13です。焙煎豆の100g換算の中央値は¥2,562(12件)、生豆は¥318(31件)でした。

見出し語(題名照合) 銘柄 生豆 焙煎豆 焙煎豆の中央値/100g 生豆の中央値/100g
有機 13 7 6 7 ¥505 ¥351
ウォッシュト 16 8 13 2 ¥3,350 ¥266
ゲイシャ 9 8 3 6 ¥2,965 ¥686
農園 9 6 7 2 ¥1,160 ¥657
カハマルカ 6 2 4 0 ¥306
アマソナス 4 2 3 0 ¥236
チャンチャマヨ 3 3 3 0 ¥328
SHB 3 1 2 0
協同組合 3 2 3 0 ¥686
G1 18 7 15 0 ¥305
マチュピチュ 10 5 9 0 ¥369
プーノ 1 1 0 1
フェアトレード 1 1 0 1
ブルボン 1 1 1 0
ナチュラル 1 1 0 1 ¥2,930

(100g換算は在庫のある行の最安値。中央値は5件未満のときは出していません。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。見出し語のどれにも当たらない銘柄が48件あります。サンマルティン・クスコ・ウアヌコ・ティピカ・カトゥーラ・SHG・アナエロビックは0件でした)

読み取れることを3つにまとめます。

  1. 「有機」が産地区分名より多い。13件・7店は、県名の見出し語カハマルカ(6件)・アマソナス(4件)・チャンチャマヨ(3件)のどれよりも多く、「農園」9件・「協同組合」3件と合わせると、認証と組織の名前で売られる産地であることが数字に出ています
  2. ゲイシャが焙煎豆の相場を押し上げている。焙煎豆12件のうち6件をゲイシャが占め、その中央値¥2,965は全体の焙煎豆中央値¥2,562を上回ります
  3. 精製・等級の表記は少数派。ウォッシュト16件、SHB3件で、いずれも県名や認証の語より件数が少なく、産地・認証・組織の名前を前に出す商品名が主流です

焙煎豆の相場は焙煎豆相場ボードで日ごとの分布が見られます。生豆は生豆価格ボードで店をまたいで比較できますが、規格の書かれていない単一農園ロットは比較の対象外です。

買うときの目安

  • まず1袋なら「有機」表記のG1。この産地でもっとも多く語られる軸が有機認証で、店の数も多いため選びやすいところです
  • ゲイシャで選ぶなら焙煎豆を先に探す。観測では焙煎豆の比率が高く、価格帯も別枠であることが数字に出ています
  • 県名で選ぶなら北部(カハマルカ・アマソナス)を軸に。観測件数がまとまっているのは北部で、中部のチャンチャマヨがそれに続きます
  • 等級表記が薄いことを前提に見る。SHBやG1の表記自体は少なく、しきい値の数値も資料により異なるため、等級だけを頼りに選別する情報は限られています

まとめ — ペルーの選び方3ステップ

  1. 東斜面の3区分で位置を掴む: 北部(カハマルカ・アマソナス・サンマルティン)、中部(フニン=チャンチャマヨ)、南部(クスコ・プーノ)
  2. 産地名より認証・組織の語を手がかりにする: 「有機」「協同組合」「農園」が県名より多く現れる産地。「マチュピチュ」は産地名でなく銘柄名
  3. ゲイシャは別の価格帯として見る: 焙煎豆の相場を押し上げている側で、通常の等級・精製表記の商品とは別枠

県名より認証と組織の名前が先に立つ——この記事の地図と読み方が分かれば、次にペルーの棚を見たとき、その商品がどの物差しで語られているかが見えてきます。