「コロンビア スプレモ」と「ウイラ ○○農園」——コロンビアのコーヒーは、同じ国の豆なのに商品名の作り方がまるで違います。前者は等級だけを名乗り、後者は県名と農園名を重ねます。この記事では、3つの山脈にまたがる産地の位置関係と、旧来の「コーヒー三角」からいまの生産の重心への移り変わり、そして「スプレモ」「エクセルソ」という輸出等級の正体を一枚の地図に整理し、国内の棚の実測につなげます。産地全体を見渡す記事がコロンビアを1章で扱ったのに対し、ここでは国の中を歩きます。

コロンビアはどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 総生産量ではブラジル・ベトナムに次ぐ世界3位ですが、アラビカ種に限れば世界最大の生産国とされます。他の生産国の多くがロブスタも作るのに対し、コロンビアはアラビカ種を中心に栽培する国です
  2. 農園規模は1〜5ha程度の小規模農家が主体です。Cafe Importsの資料では栽培に携わる世帯は推計60万戸、USDAは「50万世帯超」と記します。エチオピアやインドネシアと同じく、小規模農家の集まりが産地の実態です
  3. 全国コーヒー生産者連合会(FNC)による価格安定の仕組みが生産を支えています。1927年設立のFNCは、国家コーヒー基金(FoNC)の資金で「買取保証(garantía de compra)」を運用し、生産者が農園近くで現金・市場価格で豆を売却できる制度を整えているとFNC公式サイトは説明します。組合員数は50万を超えるとされます

山と谷で読む産地の地図

コロンビアの国土は、南北に走る3つの山脈——西コルディレラ・中央コルディレラ・東コルディレラ——が縦に貫き、その間をマグダレナ川とカウカ川の谷が流れます。コーヒーはこの山脈の斜面に沿って、18の県にまたがって栽培されています。

産地(県) 位置 産地としての性格
カルダス・キンディオ・リサラルダ(旧「コーヒー三角」=Eje Cafetero) 中央コルディレラと西コルディレラの間、国のほぼ中央 3県合計13,873km²(国土の約1.2%)。2011年にUNESCO世界遺産「コーヒー文化的景観」に登録された、コロンビアコーヒーの伝統的な顔
ウイラ 南西部。東コルディレラと中央コルディレラの間、マグダレナ川の上流部の谷 県別の生産シェアで首位が続くとされる。ピンクブルボンの産地としても語られる
ナリーニョ 最南端、エクアドル国境沿い 商品名に県名が単独で出ることが多い(下の観測表を参照)
カウカ ナリーニョの北に隣接 ウイラ・ナリーニョとともに近年の生産の重心とされる
トリマ 中部、ウイラの北 生産量の上位に挙がるとされる
アンティオキア 中西部 生産量の上位に挙がるとされる
サンタンデール 北東部 栽培県の一つとして挙げられる
シエラネバダ 北部、カリブ海沿岸の孤立した山塊 他の産地と地続きでない、独立した山系

「新しいコーヒー三角」への重心移動

旧来の「コーヒー三角」はカルダス・キンディオ・リサラルダの3県で、世界遺産登録もこの3県が対象です。しかし近年は、そこから南西へ離れたウイラ・カウカ・ナリーニョの3県が合わせて全国生産の約33%を占め、「新しいコーヒー三角」と呼ばれるようになっているとされます。旧来の三角が観光地としての知名度で語られる一方、いまの生産の重心は南西の3県に移っている、という位置関係を掴んでおくと、商品名の県名が読みやすくなります。

収穫は年2回、県によって主副が逆転する

コロンビアは収穫が年2回制で、地域によって主収穫の時期が入れ替わります。ウイラは主収穫が11月〜1月・副収穫が5月〜7月、カウカとナリーニョは主収穫が5月〜7月・副収穫が11月〜1月とされます。国土のどこかで常に収穫期にあたるため、コロンビアは国全体で見ると年間を通じて新豆が途切れにくい産地です。

名前のつまずき — 「スプレモ」「エクセルソ」は産地でも品質でもない

ここがコロンビアで一番つまずくところです。「スプレモ」「エクセルソ」は、産地名でもカップ品質の格付けでもなく、生豆の粒の大きさをふるい分ける輸出等級です。

コロンビア政府とFNC代表からなるComité Nacional de Cafeterosが定める国家品質基準は、スクリーン(1/64インチ刻みの網目のふるい)を基準に生豆を5段階に分けます。2013年時点でFNCが国際コーヒー機関(ICO)へ報告した内容では、上からPremium(スクリーン18)、Supremo=スプレモ(スクリーン17)、Extra(スクリーン16)、Excelso=エクセルソ(スクリーン14、50%以上がスクリーン15であること)、Caracol(スクリーン12)の5段階です。業界の実務ではこれを単純化した「スプレモ=スクリーン17以上、エクセルソ=それ未満」という2区分で語られることも多く、この2語が日本の商品名でもほぼそのまま使われています。

**大切なのは、この区分がすべて粒の大きさと欠点の数で決まるという点です。**カップ品質(風味の良し悪し)を測る物差しではなく、風味は産地・標高・栽培方法・精製によって別に決まります。なお、エクセルソの輸出許容値は2016年の決議で緩和されたと報道されていますが、決議文そのものは確認できておらず、現行の数値がなお同じかどうかは未確認です。

つまり「コロンビア スプレモ」と「コロンビア ウイラ ○○農園」は、同じ国の豆を等級という物差しで語るか、産地と生産者という物差しで語るかが違う、別の売り方なのです。等級だけの商品は粒がそろった標準的なロットを、県名・農園名まで書かれた商品は出所を絞ったロットを指している、と読み分けられます。

品種で読む — カスティージョとピンクブルボン

コロンビアの一般的な栽培品種はブルボンカスティージョ・カティモール・カツーラ・コロンビア・ティピカです(品種の基礎知識も参照)。このうち商品名によく登場するのが次の2つです。

  • カスティージョ: カツーラとティモール・ハイブリッドの交配系統で、さび病耐性を目的にFNCが普及させたとされます。USDAの2025年5月の報告では、さび病耐性品種が栽培面積の87%を占め(2010年の35%から拡大)、その中心がこのカスティージョです。ただし品種名そのものが商品名に出ることは少なく、日本の棚では2件(2026-09-13時点)でした
  • ピンクブルボン: 南部ウイラ県が原産とされ、1980年代にアセベド市サンアドルフォ地区で最初に確認されたとされます。当初は赤ブルボンと黄ブルボンの交雑と考えられていましたが、遺伝子検査でエチオピアの在来系統に起源を持つ可能性が示されたとする記述もあります(いずれも未確認)。さび病への耐性が評価され、2010年代にウイラ南部の農園で栽培が広がったとされます

生産の主力であるカスティージョが品種名として棚に出ないのに対し、ピンクブルボンやゲイシャは農園名・県名と並んで前面に出てきます。栽培面積で語られる品種と、商品名で語られる品種が別だという点は、コロンビアの棚を見るときの手がかりになります。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内の店と楽天市場の出品者のうち、産地がコロンビアのコーヒー(ブレンドを除く)は483銘柄・62店でした(2026-09-13時点)。内訳は生豆261、焙煎豆157、その他(生豆卸の焙煎サービス等)65です。焙煎豆の100g換算の中央値は¥1,642(82件)、生豆は¥403(108件)でした。

見出し語(題名照合) 銘柄 生豆 焙煎豆 焙煎豆の中央値/100g 生豆の中央値/100g
スプレモ 137 28 100 9 ¥1,192 ¥392
ナリーニョ 65 7 46 2 ¥265
ゲイシャ 39 9 11 23 ¥2,160 ¥777
ピンクブルボン 25 7 9 13 ¥1,739 ¥735
トリマ 23 3 14 2 ¥10,400
エクセルソ 22 9 21 1 ¥1,005 ¥312
ウイラ 8 4 4 4 ¥4,000 ¥390
キンディオ 8 2 8 0 ¥1,208
カウカ 4 2 0 4 ¥4,300
シエラネバダ 2 2 2 0
サンタンデール 1 1 1 0
アンティオキア 0 0 0 0

(100g換算は在庫のある行の最安値。中央値は5件未満のときは出していません。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。見出し語のどれにも当たらない銘柄が207件あります)

読み取れることが3つあります。

  1. 等級語(スプレモ・エクセルソ)だけで棚の3分の1。137+22=159件と、単独の県名を上回ります。県名を書かずに等級だけで売る商品が、それだけ多いということです
  2. ナリーニョは生豆に偏っています。65件中46件が生豆で、焙煎豆はわずか2件。自家焙煎向けの取り扱いが多い県だと分かります
  3. ゲイシャとピンクブルボンは焙煎豆の比率が高く、価格も高め。ゲイシャは焙煎豆23件・中央値¥2,160、ピンクブルボンは焙煎豆13件・中央値¥1,739で、いずれも等級表記の中央値(スプレモ¥1,192)を上回ります。品種を前面に出す商品が、等級だけの商品とは別の価格帯にあることが数字からも見えます

焙煎豆・生豆の相場は焙煎豆相場ボード(コロンビア絞り込み)と生豆価格ボードで日ごとの分布が見られます。生豆価格ボードは産地×規格(コロンビア×スプレモ等)で店をまたいで名寄せしますが、規格の書かれていない単一農園ロットは比較の対象外です。

買うときの目安

  • まず1袋なら「コロンビア スプレモ」。等級表記だけの商品は粒のそろった標準的なロットで、コロンビアらしい明るい酸と甘みのバランスが典型として語られます
  • 産地の個性で選ぶなら、県名まで書かれた商品を探す。ウイラなら果実味の強さ、ナリーニョなら高い酸とフローラルさが典型として語られる傾向があります。同じ「コロンビア」でも県が違えば別の集荷圏です
  • 品種で選ぶなら、ピンクブルボンかゲイシャを農園名つきで。観測では焙煎豆の比率が高く、等級だけの商品とは別の価格帯で売られています
  • 「スプレモ」「エクセルソ」は粒の大きさの目安であって、風味の格付けではないと知っておく。等級が高い=おいしいという単純な対応関係ではありません
  • 精製で選ぶならウォッシュトが標準、ナチュラルやハニー・アナエロビックは発酵系の派生形。伝統的にはウォッシュトが主流ですが、近年は発酵系の精製語が付くロットも見られます

まとめ — コロンビアの選び方3ステップ

  1. 山と川で位置を掴む: 西・中央・東の3つの山脈とマグダレナ川・カウカ川の谷。旧「コーヒー三角」(カルダス・キンディオ・リサラルダ)と、いまの重心である南西3県(ウイラ・カウカ・ナリーニョ)は別の場所
  2. 等級と産地を区別する: 「スプレモ」「エクセルソ」は粒の大きさの輸出等級。「ウイラ ○○農園」のような産地・農園表記とは別の物差し
  3. 品種で棚の価格帯を読む: ピンクブルボン・ゲイシャは農園名つきで高めの価格帯、等級だけの商品は標準的な価格帯

等級語だけの商品と、県名・農園名・品種名を重ねた商品——同じコロンビア産でも、商品名の作り方の違いがそのまま棚の価格帯の違いになっています。この記事の地図と等級の読み方が分かれば、次にコロンビアの棚を見たとき、その商品がどちらの売り方をしているかが見えてきます。