「アッサム」と書かれた紅茶の缶を手に取るとき、その名前が指しているものは実は一つではありません。インド北東部の州の名前でもあり、その州で育つ茶の木の品種の名前でもある——この二重性が、アッサムという産地を最初につまずかせます。紅茶の産地入門ではダージリンとの対比でひとまとめに扱ったアッサムを、この記事では単独で歩きます。地図の位置関係、CTCとオーソドックスという二つの製法、そして国内の棚の実測データにつなげます。
アッサムはどういう産地か
まず輪郭を3つ。
- インドの紅茶生産の半分をこの一州が担います。2025年のインド全体の生産量1,369.98百万kgのうち、アッサム州は687.76百万kg(約50%)。同じ年の西ベンガル州は411.18百万kg、ダージリンはそのうちの5.30百万kgと報じられています
- 茶園はブラマプトラ川沿いの低地に広がります。標高2,000m級の急斜面に茶園が点在するダージリンとは対照的に、アッサムは平地の産地です。土壌は粘土質で、州の面積は78,438km²、気候区分は熱帯モンスーン。夏は日中35〜38℃、冬は6〜8℃程度まで下がり、農業は南西モンスーンの雨に大きく依存するとされます
- 大茶園と小規模生産者が両方支えています。大茶園が約800、小茶園が約1,150と報じられ、州政府の調査ではブラマプトラ渓谷14県のうち小規模生産者の94%が上アッサムの5県に集中するとしています
地図で読む — ブラマプトラ川沿いの二つの産地圏
アッサムの茶園は、大きく二つの産地圏に分かれます。
| 産地圏 | 中心地 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 上アッサム(ブラマプトラ渓谷) | ディブルガル・ティンスキア・ジョルハット | 州政府の調査では小規模生産者の94%が上アッサムの5県に集中し、なかでもディブルガル・ティンスキアの2県で55%を占めるとされる。ディブルガルは「Tea City of India」と呼ばれ、最初の茶園はここから約20マイルのチャブアにあったとされる |
| バラク渓谷 | シルチャル(カチャール) | ブラマプトラ渓谷とは別の産地区分。2025年の州全体の生産687.76百万kgのうち651.08百万kgがブラマプトラ渓谷で、残りがバラク渓谷とされる |
上アッサムのディブルガルは標高108m、年降水量2,518.3mm。最多雨月は7月(485.0mm)と8月(394.3mm)で、年平均気温は日中28.5℃・夜間18.8℃程度とされます。モンスーン期には1日250〜300mmの雨が降る日もあり、日中36℃前後の高温多湿になるとされる——ダージリンの急斜面と標高2,000mに対して、アッサムは低地の雨と暑さがつくる産地だと分かります。研究機関のトックライ研究所は1911年にジョルハット近郊に設立されました。
生産のオークションはガウハティ茶オークションセンター(1970年9月25日開設)が担い、世界で扱う量が最も多いとされるCTCのオークションとされています。産地としての歴史も古く、1823年にこの地の茶の木が確認されたと伝わり、1837年に製茶に成功、1839年にアッサムカンパニーが設立されたとされます。製茶のために招かれていた中国人の職人は1843年にアッサムを去り、以後は現地の労働力で運営されるようになったとされます。
「アッサム」の二つの意味
ここが一番つまずくところです。「アッサム」には、産地の名前(インドの州名)と、品種の名前(Camellia sinensis var. assamica、アッサム種・大葉種)の二つの意味があります。 アッサム種はダージリンなどで使われる中国種より葉が大きく、この品種そのものが別の産地(たとえばインドネシアのジャワ)で栽培されることもあります。棚に「アッサム種」と書かれた他産地の紅茶を見かけたら、それは品種の話であって産地の話ではありません。
もう一つのつまずきは収穫期です。「セカンドフラッシュ」は収穫期を指す語であって、等級でも産地でもありません。ファーストフラッシュは3月下旬から始まり、その後セカンドフラッシュに移るとされ、セカンドフラッシュはティップ(芯芽)の多い「tippy tea」として扱われるとされます。ダージリンと同じ語ですが、指しているのは「いつ摘んだか」だけです。
Tea Board of Indiaの月別生産量(2024年)を見ると、1月0.16・3月21.45・6月75.91・8月104.46・10月111.52・12月6.33(百万kg。4〜12月は暫定値)と、8〜10月が生産の山で12〜2月がほぼ休眠期です。日本の店の商品名で強調されるのは初夏摘みの「セカンドフラッシュ」ですが、州全体の生産量で見ると山はもう少し後ろにずれています。
製法で読む — CTCとオーソドックス
アッサムを選ぶときに効いてくるのが、CTCとオーソドックスという二つの製法の違いです。
- CTC(Crush・Tear・Curl): 茶葉を潰し・裂き・丸めて粒状に加工する製法。ガウハティのオークションは世界で扱う量が最も多いとされるCTCのオークションとされ、アッサムの茶産業を語るときの主力製法です
- オーソドックス: 萎凋・揉捻・発酵・乾燥という工程を経て茶葉の形を残す製法。「Assam Orthodox」という語で地理的表示(GI)を取得しているとされます(取得年は資料によって記載が食い違うため、ここでは年を記しません。インドで最初にGIを取得した紅茶はダージリン紅茶〈2003年〉です)
CTCは短時間で濃く出るためミルクティーやチャイに向くと語られ、オーソドックス(ホールリーフ)はストレートで香りを楽しむ側に向くと語られます。商品名では、等級記号に「CTC」の語が付くもの(CTC BOP・CTC PFなど)がCTC製法、STGFOP1・FTGFOP1・TGBOPのように等級記号だけで書かれているものはオーソドックス製法であることが多いとされます。等級記号そのものの読み方は紅茶の等級の読み方にまとめているので、ここでは重複を避けます。
国内の棚の実態 — 観測データから
コピチャ観測所が観測する国内の店のうち、産地がアッサムの紅茶(ブレンドを除く)は79銘柄・17店でした(catalog 2026-09-13時点)。100g換算の中央値は¥1,915(34件)。収穫期の内訳はセカンドフラッシュ43・不明23・ファーストフラッシュ9・オータムナル4です。
| 見出し語(題名照合) | 銘柄 | 店 | 100g換算の中央値 |
|---|---|---|---|
| セカンドフラッシュ | 42 | 6 | ¥1,944 |
| 茶園名あり | 42 | 6 | ¥1,944 |
| FTGFOP以上 | 22 | 4 | ¥2,182 |
| CTC | 12 | 4 | ¥1,886 |
| ファーストフラッシュ | 6 | 3 | ¥1,707 |
| BOP | 4 | 3 | ¥864 |
| ティーバッグ | 9 | 5 | — |
| オーガニック | 1 | 1 | ¥2,565 |
(100g換算は在庫のある行の最安値。中央値は5件未満のときは出していません。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。数字はすべて catalog 2026-09-13時点)
読み取れることが2つあります。
- セカンドフラッシュと茶園名は、42件・6店とほぼ同じ数字で重なります。国内の棚では、セカンドフラッシュを謳う商品のほとんどが茶園名も添えているという読み方になります。ただし79銘柄・17店のうち、この組で出る店は6店にとどまり、残りの11店はセカンドフラッシュや茶園名を前面に出さない売り方だということでもあります
- 等級が上がるほど価格帯が上がる傾向が見えます。FTGFOP以上(22件・4店)の中央値は¥2,182、BOP(4件・3店)は¥864。ただし等級は葉の大きさを表す記号であって、味の格付けではありません。この価格差は等級そのものの優劣というより、ホールリーフを扱う専門店の値付けの傾向として読むべきです
紅茶価格ボードでは、産地×茶園×収穫期で店をまたいだ比較ができます(セット・ティーバッグ・ブレンドは比較の対象外です)。狙いの茶園・収穫期があれば、紅茶価格ボードで入荷を確認してください。
買うときの目安
- まず1袋なら「セカンドフラッシュ」の茶園名入り。国内の棚で最も厚く、42件・6店という実測の裏付けがあります
- ミルクティーにするなら等級にCTCと付くもの。BOP・PFなどブロークン・ファニングス系の葉は短時間で濃く出るとされ、CTC製法との相性がよいと語られます
- 茶園名は店ごとの表記で探す。同じ茶園でもカタカナ表記が店によって違うことがあるので、特定の茶園を探すときは英字表記でも当たってみてください
- 「アッサム種」は品種、「アッサム」は産地——商品名のどちらを指しているか確認する。他産地でアッサム種を使った紅茶を見かけたら、それは産地としてのアッサムではありません
まとめ — アッサムの選び方3ステップ
- 地図で位置を掴む: ブラマプトラ川沿いの低地。上アッサム(ディブルガル・ティンスキア・ジョルハット)とバラク渓谷(カチャール)の二つの産地圏
- 名前の二重性を分ける: 「アッサム」は州名でもあり品種名(アッサム種)でもある。「セカンドフラッシュ」は収穫期であって等級でも産地でもない
- 製法で読む: CTCはミルクティー向け、オーソドックスはストレート向けと語られる。等級記号の読み方は紅茶の等級の読み方へ
同じインド北東部でも、ダージリンの標高とアッサムの低地はまったく違う条件で茶をつくっています。産地入門とダージリンを座標で買うとあわせて読むと、二つの産地の違いがより輪郭を持って見えてきます。