「ホンジュラス」——ホンジュラスは、2011年に生産量でグアテマラを上回って以来、中米で最も生産量の多い国です。それでいて、国内の専門店の棚では産地名そのものがあまり語られません。商品名の骨格になっているのは、SHGという標高等級と、農園名・精製の組み合わせです。この記事では、IHCAFE(ホンジュラス・コーヒー協会)が定める6つの産地区分の位置関係と、中米最大の生産国がなぜ産地名で語られないのか、精製の内訳を、国内の棚の実測とあわせて整理します。標高等級SHGの仕組み自体はニカラグア・エルサルバドルの記事で扱ったので、ここでは繰り返しません。

ホンジュラスはどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 2011年に生産量でグアテマラを上回り、中米最大の生産国になりました。差はわずか約5,000トンだったとする記述があります。米国農務省(USDA)は2026年4月の年次報告で、2026/27年度の収穫面積を33万ha(前年31万haから増加)、総植栽面積36万ha、結実樹21億本(前年20億本)と予測しています
  2. 生産量は増加基調が続いています。USDA予測としてDaily Coffee Newsが2026年5月に伝えるところでは、生産量はMY2024/25の520万袋(60kg換算)からMY2025/26に553万袋(+6.3%)、MY2026/27に603万袋(+9%)へ増える見通しで、600万袋を超えるのは2021/22シーズン以来といいます。2025年の輸出先は米国34%、ドイツ23%、ベルギー13%の順でした
  3. 2012〜2013年のさび病(ロヤ)流行で植物検疫上の非常事態を宣言しました。経済損失は2.3億ドルとする集計があり、生産は2014/15シーズンに537万袋(USDAの改定値・60kg換算)まで回復したとされます。この危機を経て、IHCAFE 90・レンピラ・パライネマといったさび病耐性品種の普及が進みました。2026年3月時点のさび病発生率は7.57%から8.44%へ上昇したと、USDAの報告をDaily Coffee Newsが伝えています

IHCAFE(ホンジュラス・コーヒー協会)は1970年設立の非営利の指導機関で、国内生産の振興・技術改善の普及・生産者への信用供与を目的とし、ブランディング目的で国内を6つの産地区分に分けています。

産地の地図 — IHCAFEの6区分

商品名や産地解説で見る産地区分名は、この6つのどれかです。

産地区分 位置 標高 特徴
コパン(Copán) 西部。グアテマラ国境(コパン県・オコテペケ県・サンタバーバラ県の一部) 約1,000〜1,500m 最低気温11〜11.5℃と6区分の中で最も冷涼とされる。「Honduran Western Coffees」という地理的表示に含まれる
オパラカ(Opalaca) コパンの東(サンタバーバラ県の大部分・インティブカ県・レンピラ県) 約1,100〜1,500m コパンと同じHonduran Western Coffeesに含まれる
モンテシージョス(Montecillos) 南西部。エルサルバドル国境沿い 約1,200〜1,600m この地方のマルカラは、ホンジュラス初の原産地呼称「Café de Marcala」を持つとされる
コマヤグア(Comayagua) 中部(コマヤグア県・フランシスコ・モラサン県) 約1,000〜1,500m 2016年の単収は30.19キンタル/マンサナで6区分の中で最多と報告されている
エルパライソ(El Paraíso) 南部。ニカラグア国境沿い 約1,000〜1,400m 2017年のCup of Excellenceでは、品種パライネマのロットがこの産地区分から優勝した
アガルタ(Agalta) 南東部 約1,100〜1,400m 熱帯性気候とされる

位置関係を掴む

地図で位置関係を掴むなら、6区分は国境沿いと中部に散らばっています。西のグアテマラ国境にコパンとオパラカが並び、コパンが最も冷涼、オパラカはその東側です。南西のエルサルバドル国境沿いにモンテシージョスがあり、その中のマルカラがホンジュラス唯一の原産地呼称を持ちます。中部にコマヤグア、南のニカラグア国境沿いにエルパライソ、南東にアガルタが位置します。グアテマラの太平洋側火山列と非火山の北西高地という2本の軸とは違い、ホンジュラスの6区分は国土のほぼ全周の国境沿いと中部に分かれているのが特徴です。

名前のつまずき — 中米最大なのに、産地名で語られない

ここがホンジュラスで一番つまずくところです。中米最大の生産国でありながら、国内の商品名では産地区分名がほとんど使われません。

コピチャ観測所の観測では、標高等級のSHGが31銘柄・6店で使われる一方、産地区分名はコパンが3件・2店、モンテシージョスが1件・1店、マルカラが1件・1店にとどまり、オパラカ・コマヤグア・エルパライソ・アガルタは題名に一件も現れません(内訳は後述の観測データを参照)。代わりに商品名の骨格になっているのは、農園名(「農園」を含む商品名が13件・7店)と精製です。グアテマラが「産地区分+SHB」、ニカラグアが「品種+農園名」という型を持つのに対し、ホンジュラスは等級・農園名・精製がばらばらに組み合わさり、産地区分がほとんど登場しない、という違いがあります。

規格 — SHG・HG・CS

商品名につく等級記号は、エルサルバドル・ニカラグアと同じ**SHG(Strictly High Grown)・HG(High Grown)・CS(Central Standard)**の3段階です。標高による等級とされますが、その境目となる標高は資料によって食い違い、確定した数値としては書けません。標高等級の仕組み自体はSHGの用語ページとニカラグアの記事にまとめてあるので、ここでは繰り返しません。

観測データでもSHGが31件・6店と最多で、グアテマラで主流のSHBは0件でした。同じ中米でもグアテマラの市場がSHBで語られるのに対し、ホンジュラスはニカラグア・エルサルバドルと同じSHG側に属しています。

精製の内訳 — ウォッシュトが基本、ハニー・アナエロビックも目立つ

精製はウォッシュ(ウォッシュト)が標準的な方法とされ、近年は完全機械乾燥に移行する生産者が増えているとされます。国内の商品名でも、精製の語を含む銘柄のうちウォッシュトが17件・5店で最も多く、次いでハニーが15件・2店、アナエロビックが6件・2店でした(題名の照合による集計。1銘柄が複数の語に数えられることがあります)。ナチュラルは7件・4店です。

ハニーとアナエロビックを合わせた件数は、ウォッシュトに迫る規模です。ホンジュラスの商品名には複合的な精製を掲げる銘柄も見られ、標準の水洗式から外れた精製を前面に出す売り方が、産地区分名の薄さと対照的に厚みを持つ産地だと分かります。

品種 — さび病耐性品種から大粒系まで

主要な品種はブルボン、カツーラ、パカス、ティピカ、カトゥアイ(IHCAFEが1970年代にグアテマラから導入したとされる)です。2012〜2013年のさび病流行を経て、IHCAFE 90(IHCAFEが1990年代に作出したさび病抵抗性・多収の品種)、レンピラ(カツーラとティモールの交配種。IHCAFEが1990年代に作出)、パライネマ(サルチモール系統T5296由来で、2004年にIHCAFEが発表した、さび病に高い抵抗性を持つ品種。気候変動とさび病抵抗性の低下を背景に近年作付が増えているとされる)といった耐病性品種の普及が進みました。

観測データではゲイシャを冠した商品も7件・3店見つかり、パカス(3件・3店)、カトゥアイ(2件・2店)、IHCAFE 90(1件・1店)が続きます。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内店と楽天市場の出品者のうち、産地がホンジュラスのコーヒー(ブレンドを除く)は86銘柄・24店でした(catalog 2026-09-13時点)。内訳は生豆43、焙煎豆30、その他(生豆卸の焙煎サービス等)13。焙煎豆の100g換算の中央値は¥972(21件)、生豆は¥431(14件)です。

精製の内訳は不明42・ウォッシュト18・ハニー17・アナエロビック6・ナチュラル3、焙煎度が書かれている焙煎豆の内訳は不明20・中煎り4・浅煎り2・深煎り2・中深煎り2です。

見出し語(商品名の照合) 銘柄 店 生豆 焙煎豆 焙煎豆の中央値/100g 生豆の中央値/100g
SHG 31 6 22 1 ¥972 ¥358
SHB 0 0 0 0 — —
コパン 3 2 2 0 — ¥312
オパラカ 0 0 0 0 — —
モンテシージョス 1 1 1 0 — —
コマヤグア 0 0 0 0 — —
エルパライソ 0 0 0 0 — —
アガルタ 0 0 0 0 — —
マルカラ 1 1 1 0 — —
農園 13 7 8 3 ¥980 ¥406
ウォッシュト 17 5 7 9 ¥983 —
ハニー 15 2 9 2 ¥4,147 —
アナエロビック 6 2 1 5 ¥746 —
ナチュラル 7 4 2 5 ¥746 ¥272
ゲイシャ 7 3 1 6 ¥4,018 —
パカス 3 3 1 2 ¥935 —
カトゥアイ 2 2 1 1 ¥972 ¥272

(100g換算は在庫のある行の最安値。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。見出し語のどれにも当たらない銘柄が29件あります)

読み取れることが3つあります。

  1. SHGが86件中31件、店の24のうち6が扱う一方、産地区分名はコパン3件・モンテシージョス1件・マルカラ1件にとどまり、オパラカ・コマヤグア・エルパライソ・アガルタは0件です。中米最大の生産国でありながら、産地区分より等級と農園名で売られている実態が数字に出ています
  2. 農園名を含む商品名が13件・7店で、精製ではウォッシュトが17件・5店、ハニーが15件・2店、アナエロビックが6件・2店でした。ハニー・アナエロビックはいずれも扱う店が2店に集中していて、これらの精製を前面に出す一部の店に厚みが偏っています
  3. ゲイシャの焙煎豆は100gあたり¥4,018(6件)、ハニーの焙煎豆も¥4,147(2件)と、他の見出し語より高値です。この2つは農園やロットの個性を強く打ち出す商品として、SHGだけの商品名とは別の売り方をされています

焙煎豆は焙煎豆相場ボード(ホンジュラス絞り込み)で日ごとの分布が見られます。生豆は生豆価格ボードで、SHG表記の生豆が店をまたいで並びます。

買うときの目安

  • まず1袋なら「ホンジュラス SHG」のウォッシュト。等級表記の中で最も扱う店が多く、比べやすい入り口です
  • 精製で選ぶなら、ハニーとアナエロビックを飲み比べる。標準のウォッシュトとは別の輪郭が出やすい精製です
  • 産地区分名で選びたいなら、コパンかモンテシージョスを手がかりにする。他の4区分は商品名にほとんど出てこないので、産地ページの観測した商品から店単位でたどるほうが早い場合があります。マルカラを見つけたら、原産地呼称を持つ地域だと分かって選べます
  • さび病の影響は続いています。2026年3月時点で発生率が上昇しており、IHCAFE 90・レンピラ・パライネマといった耐性品種への更新は、生産構造がまだ途中の段階です

まとめ — ホンジュラスの選び方3ステップ

  1. 地図で位置を掴む: コパン・オパラカは西のグアテマラ国境、モンテシージョスは南西のエルサルバドル国境、エルパライソは南のニカラグア国境、コマヤグアは中部、アガルタは南東
  2. 中米最大でも、産地名では語られない: 2011年にグアテマラを抜いた生産量でも、商品名の骨格はSHG・農園名・精製で、産地区分はほとんど出てきません
  3. 精製で個性を探す: ウォッシュトが基本の中、ハニー・アナエロビックが他の中米諸国より目立つ形で売られています

同じ中米でも、グアテマラは標高規格、ニカラグアは品種と農園名、ホンジュラスは精製と農園名という具合に、商品名の重心はそれぞれ違います。生産量では中米最大という規模の大きさと、棚での存在感の薄さのギャップが、この産地の一番の特徴です。