「ニカラグア SHB」という商品名を探しても、国内の棚ではほとんど見つかりません。グアテマラやコスタリカと同じ中米の隣国でありながら、ニカラグアの標高等級はSHB(Strictly Hard Bean)ではなくSHG(Strictly High Grown)が主流です。もうひとつ、この産地の棚を歩くと必ず出会う品種名があります。ジャバニカ(ジャバ)です。この記事では、北部高地3県の位置関係と、SHGという等級の読み方、ジャバニカという品種の位置づけを、国内の棚の実測とあわせて整理します。

ニカラグアはどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. **生産量は世界12位、世界生産の約1.5%**とされます。USDAの2026年版の予測では、2026/27年度の生産量は240万袋(60kg換算、ロブスタ込み)で、総生産の95%超をアラビカ種が占めます。中米の中ではホンジュラス(6位)・グアテマラ(10位)の下、コスタリカ(15位)・エルサルバドル(19位)・パナマ(37位)の上という位置づけです
  2. 大規模単一農園・協同組合・小規模生産者団体が併存する産業構造です。UNICAFE(1997年)のデータでは栽培面積120,707ha、生産者約22,700人で、規模の異なる生産者が同じ国内に混在しています。近年はさび病耐性・高収量品種であるマルセリェーザ、パライネマ、コスタリカ95、IHカフェ90、レンピラ等の導入も進んでいます
  3. 19世紀後半から100年にわたり最大の輸出品目でした。コーヒー栽培は1850年頃から広がり始め、1870年には他のどの品目よりも輸出額の大きい作物となり、その地位を約100年維持したとされます。輸出手続きは政府窓口のCETREX(Centro de Trámites de las Exportaciones)が扱い、生豆輸出はSITRADE-CETREXシステムで認証・通関されます

産地の地図 — 北部高地の3県

商品名で見かける地名は、ほとんどが北部高地の3県のどれかです。

県 標高 気候・土壌 主な地名
ヒノテガ(Jinotega) 約1,000〜1,500m 冷涼な気候とされる —
マタガルパ(Matagalpa) 約800〜1,400m 冷涼・多湿・肥沃な土壌 —
ヌエバセゴビア(Nueva Segovia) 約1,000〜1,500m — ディピルト(Dipilto。オコタルから約30km)

(3県を合わせた主産地の標高幅は900〜1,700mとされます。収穫期は概ね11月から2月にかけてです)

位置関係を掴む

地図で位置関係を掴むなら、3県は首都マナグアの北から北東に連なる一続きの高地帯の上に並んでいます。マタガルパが最も南に位置し、標高はやや低め(800〜1,400m)。そこから北へ進むとヒノテガ(1,000〜1,500m)、さらに北のホンジュラス国境に近いところにヌエバセゴビアがあり、その中の集落としてディピルトが商品名に出てきます。グアテマラのように太平洋側の火山列と非火山の高地が分かれているのとは違い、ニカラグアの主産地はこの一本の帯にまとまっているのが特徴です。

名前のつまずき — SHBではなくSHG

ここがニカラグアで一番つまずくところです。**標高等級はSHB(Strictly Hard Bean)ではなくSHG(Strictly High Grown)**が使われます。SHBという記号自体の仕組みはグアテマラの記事で整理したとおりですが、ニカラグアではこの略号自体が違います。

ある商社の等級表は、ニカラグアをホンジュラス・エルサルバドルと同じ枠に置き、SHG(標高1,200m超)・HG(900〜1,200m)・CS(Central Standard)の3段階としています。この枠組みではCSの下限標高は資料によって記述が食い違い、確定できていません。国内の商品名でもこの区分どおり、SHGが主流でSHBはごくまれという実態が観測データに表れています(後述)。同じ「標高が高いほど密度が上がる」という考え方の等級でも、グアテマラ・コスタリカがSHB系、ニカラグア・ホンジュラス・エルサルバドルがSHG系と、中米の中で使う略号が分かれています。詳しい制度の説明と資料間の食い違いはSHG・SHBの用語ページを参照してください。

もうひとつのつまずき — ジャバニカという品種

SHGと並んでニカラグアの棚の特徴になっているのが、**ジャバニカ(ジャバ)**という品種名です。パカマラやマラゴジッペと並んで大粒系の品種として商品名に出てきます。ジャバがニカラグアにいつどのように導入されたかを示す一次資料は今回の調査では確認できていませんが、国内の商品名での出現頻度は高く、パカマラ、マラゴジッペと並ぶ棚の顔になっています。

商品名の型を見ると、ニカラグアは産地区分名より農園名と品種名で売られる産地だと分かります。ヒノテガ・マタガルパといった県名は商品名にほとんど出てこず、代わりに「ロス・アルティプラノス」「モンテクリスト」のような農園名(2026-09-13時点の商品名から)と、ジャバニカ・パカマラ・マラゴジッペといった品種名が前面に出ます。これはグアテマラの「産地区分+SHB」という書き方とは対照的です。

精製 — ウォッシュトが基本、ハニー・ナチュラルも

精製はウォッシュト(フリーウォッシュ)が基本で、ナチュラルやハニー系(レッドハニー等)の表記も見られます。国内の商品名では精製そのものを書かない銘柄も多く、書かれている場合はウォッシュトが最も多く、ハニー・ナチュラル・アナエロビックがこれに続きます(内訳は後述の観測データを参照)。

Cup of Excellence — 2002年開始

品質評価の軸としては、Cup of Excellence(COE)が定着しています。Alliance for Coffee Excellence(ACE)が2002年にニカラグアでCOEを開始し、2024・2025・2026年とACE公式サイトに年次ページがあり現在まで継続実施されています。COE 2024の実績は平均落札価格16.90ドル/lb(総重量17,686.91lb)、1位のロス・アルペス農園(ヌエバセゴビア県)のロットの落札額は109.00ドル/lbで、これらは品評会オークションの記録であり店頭価格の相場とは別の指標です。商品名に「COE2025 #15」のように年次と順位が併記されている場合は、その年の品評会で評価されたロットを指します。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内店と楽天市場の出品者のうち、産地がニカラグアのコーヒー(ブレンドを除く)は97銘柄・17店でした(catalog 2026-09-13時点)。内訳は生豆56、焙煎豆25、その他(生豆卸の焙煎サービス等)16。焙煎豆の100g換算の中央値は¥927(10件)、生豆は¥292(20件)です。

精製が商品名に書かれている銘柄は29件(ウォッシュト15、ハニー6、ナチュラル5、アナエロビック2、パルプドナチュラル1)で、残る68件は精製が書かれていません。

見出し語(商品名の照合) 銘柄 店 生豆 焙煎豆 焙煎豆の中央値/100g 生豆の中央値/100g
SHG 22 3 18 0 — ¥279
SHB 1 1 1 0 — —
パカマラ 10 5 5 4 ¥864 ¥269
ジャバニカ 9 2 6 1 ¥1,380 —
ウォッシュト 12 6 8 4 ¥984 ¥532
ナチュラル 8 6 5 2 ¥1,380 ¥482
ハニー 6 3 4 1 ¥864 ¥498
ブルボン 5 3 4 1 — ¥576
マラゴジッペ 5 1 3 0 — —
アナエロビック 2 2 1 1 ¥684 —
ヒノテガ 1 1 1 0 — ¥259
マタガルパ 1 1 1 0 — —
カトゥーラ 1 1 1 0 — —
ヌエバセゴビア 0 0 0 0 — —
ディピルト 0 0 0 0 — —

(100g換算は在庫のある行の最安値。中央値は5件未満のときは出していません。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。見出し語のどれにも当たらない銘柄が40件あります)

読み取れることが3つあります。

  1. SHGが22件・3店、SHBはわずか1件。等級を書くなら圧倒的にSHGという表記の実態が、そのまま数字に出ています
  2. ジャバニカは9件・2店、パカマラは10件・5店。ともに大粒系の品種で、この2つが品種名としての棚の顔です。マラゴジッペは5件・1店にとどまり、扱う店が限られています
  3. 県名のヒノテガ・マタガルパはそれぞれ1件のみ、ヌエバセゴビア・ディピルトは0件。産地区分名はほとんど商品名に出ず、農園名と品種名が主な訴求点になっているという実態が数字で裏付けられます

焙煎豆は焙煎豆相場ボード(ニカラグア絞り込み)で日ごとの分布が見られます。生豆は生豆価格ボードで、SHG表記のある商品同士が店をまたいで並びます。

買うときの目安

  • まず1袋なら「ニカラグア SHG」か、農園名付きのウォッシュト。等級で選ぶならSHG、農園名で選ぶなら「ロス・アルティプラノス」のような固有の農園名が付いた商品を探すと、扱う店が絞り込みやすくなります
  • 品種で選ぶなら、ジャバニカとパカマラを飲み比べる。どちらも大粒系ですが、香味の傾向が語られる文脈が異なり、店によって扱いの厚さも違います
  • SHBと書かれた商品を見つけたら、それが例外だと分かって選ぶ。観測でも1件だけで、グアテマラ・コスタリカの慣用表記がそのまま使われている可能性があります
  • COEのロット名(年次・順位付き)は、品評会の評価であって店頭相場ではないという前提で見ると、価格の高さに驚かずに済みます

まとめ — ニカラグアの選び方3ステップ

  1. 地図で位置を掴む: ヒノテガ・マタガルパ・ヌエバセゴビアはマナグアの北から北東へ連なる一本の高地帯。ディピルトはヌエバセゴビア内の集落
  2. 等級はSHGで読む: グアテマラ・コスタリカのSHBとは違う略号。ニカラグアではSHGが主流で、SHBはまれな例外
  3. 品種と農園名で選ぶ: 産地区分名はほとんど出てこない。ジャバニカ・パカマラという品種名と、農園名が商品名の中心

同じ中米でも、グアテマラは標高規格、コスタリカは精製、ニカラグアは品種と農園名という具合に、商品名の重心はそれぞれ違います。SHBだと思い込んでいた等級がSHGだと分かれば、棚の見え方が変わります。