「グアテマラ SHB」——グアテマラのコーヒーを買うとき、多くの商品名にこの記号がついています。SHBは産地の名前でも品種の名前でもありません。標高による等級です。この記事では、グアテマラ全国コーヒー協会(Anacafé)が定める8つの産地区分の位置関係と、SHBという規格が何を示しているのか、そして品種の重なりを、国内の棚の実測とあわせて整理します。

グアテマラはどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 国土の大半が火山性の高地です。標高は海抜0mから3,000mを超える範囲に及び、コーヒー栽培は主にその高地側で行われます。作付の約98%・生産量の96%をアラビカ種が占め、残りをロブスタ種が占めます
  2. 20世紀の大半、中米で最も生産量の多い国でした。コーヒー産業は1850〜60年代に発展し、1871年の自由主義革命(フスト・ルフィーノ・バリオス政権)以降に急拡大したとされます。1880年には輸出額に占めるコーヒーの割合が92%(資料により90%とするものもあります)に達しましたが、2011年にホンジュラスに生産量で抜かれ、その座を譲りました
  3. 輸出先の2位が日本です。USDAの2026年の年次報告(Daily Coffee Newsの転載)では、輸出先は米国が42%で最も多く、次いで日本・カナダ・ベルギー・イタリア・韓国と続くとされます。日本側の統計でも、2025年(確々報)の生豆輸入量19,630tはブラジル・ベトナム・コロンビアに次ぐ4位で、双方向で太いつながりのある産地です

産地の地図 — Anacaféの8区分

Anacafé(グアテマラ全国コーヒー協会)は、地形と気候の違いから国内を8つの産地区分に分けています。商品名の産地区分表記は、ほぼこの8つのどれかです。

産地区分 特徴 標高・気候
アンティグア アグア・フエゴ・アカテナンゴの3火山に囲まれ、軽石を含む火山性土壌 標高約1,524〜1,707m、気温18〜22℃、年間降水量約813〜1,219mm
ウエウエテナンゴ 非火山性の高地。8区分のうち最も標高が高く乾燥している。遠隔地のため生産者が自前で精製する例が多い 標高約1,524〜1,981m、気温20〜24℃、年間降水量約1,219〜1,422mm
コバン 石灰岩・粘土質の土壌。現地で「チピチピ」と呼ばれる霧雨が特徴 標高約1,311〜1,707m、年間降水量約3,048〜4,064mm(国内最多)
アティトラン アティトラン湖周辺の産地区分 標高・気候の数値は未取得
フライハーネス 南部の産地区分 標高・気候の数値は未取得
アカテナンゴ アカテナンゴ火山周辺の産地区分 標高・気候の数値は未取得
サンマルコス 太平洋岸に近い産地区分 標高・気候の数値は未取得
ニューオリエンテ 東部の産地区分 標高・気候の数値は未取得

(アティトラン・フライハーネス・アカテナンゴ・サンマルコス・ニューオリエンテの標高・気温・降水量は、Anacaféの各産地ページに個別の記載がある見込みですが、今回の調査では未取得です。数値を確認できたアンティグア・ウエウエテナンゴ・コバンの3区分にとどめて表にしています)

位置関係を掴む — 火山列と非火山の高地

地図で位置関係を掴むなら、軸は2本です。

1つは太平洋側に連なる火山列。アンティグアはアグア・フエゴ・アカテナンゴの3火山に囲まれた盆地で、アカテナンゴ、サンマルコス、フライハーネスも同じ太平洋側の火山性の高地に位置します。国土南部のこの帯は、軽石質の火山性土壌が共通の土台です。

もう1つはメキシコ国境に近い北西の非火山性高地、ウエウエテナンゴです。8区分の中で最も標高が高く乾燥している区分で、土台は火山性土壌ではありません。遠隔地であることが、生産者が自前で精製設備を持つ理由にもなっています。

この2本の軸から外れるのがカリブ海側の多雨地帯コバンです。国内で最も降水量が多く、年間3,048〜4,064mmという数値は、太平洋側の産地区分の2〜3倍にあたります。石灰岩・粘土質の土壌と常時の霧雨は、南部の火山列とは別の環境です。アティトランは南部のアティトラン湖周辺、ニューオリエンテは東部に位置します。

名前のつまずき — SHBは産地でも品種でもない

ここがグアテマラで一番つまずくところです。SHB(Strictly Hard Bean)は標高による規格であり、産地区分でも品種でもありません。

商社の産地解説では、SHBは標高1,350mを超える南向きの火山斜面が主産地とされます。2024/25年の収穫の81%が、このSHBに分類されました。日本国内の商品名でもSHB表記がほぼ唯一の等級表記として定着していて、それより下位のHBやEPWといった等級はほとんど見られません。

つまり「グアテマラ SHB」という商品名は、国名+標高規格という組み合わせで、産地区分にも農園にも触れていません。標高1,350m超という条件は、数値の取れているアンティグア・ウエウエテナンゴ・コバンのいずれにも当てはまるため、SHBと書いてあるだけでは、アンティグアなのかウエウエテナンゴなのか分かりません。一方「ウエウエテナンゴ ○○農園」のように産地区分と農園名まで書かれた商品名は、産地・標高帯・生産者が一段階ずつ絞られています。同じ国のコーヒーでも、この2つの商品名が持つ情報量は違います。

なお、SHBという等級の標高の閾値は、資料によって数値の幅があります(SHB・SHGの用語ページを参照)。ここでは商社の産地解説にある「1,350m超」を目安として扱っています。

精製 — ほぼ全量が水洗式

グアテマラのアラビカは**ほぼ全量が水洗式(ウォッシュト)**で精製され、栽培の98%が日陰栽培(シェードグロウン)とされます。近年はナチュラルやハニーを採る農園も増えていますが、輸出全体で見ればウォッシュトが基本という構図に変わりはありません。ナチュラルやハニーを名乗る商品名を見つけたら、それは主流から外れた精製を選んで書いている合図です。

品種 — ブルボン系からパカマラ・ゲイシャまで

主要な品種はブルボン、カトゥーラ、カトゥアイ、ティピカ、マラゴジッペ、パチェ、パカマラとされます。コーヒーさび病(CLR)は2024/25年の1〜3月に発生率が月により20%程度まで上がったと報告されており、さび病耐性品種への更新はアラビカ農園の約3割まで進んでいるとされます。

この主要品種のリストにゲイシャは含まれていませんが、国内の棚の実測(後述)ではゲイシャを冠した商品も一定数見つかります。パカマラやゲイシャを商品名に掲げる店は、品種そのものを商品の個性として前面に出しているということで、「グアテマラ SHB」とだけ書く商品名とは対照的です。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内店と楽天市場の出品者のうち、産地がグアテマラのコーヒー(ブレンドを除く)は282銘柄・31店でした(catalog 2026-09-13時点)。内訳は生豆165、焙煎豆62、その他(生豆卸の焙煎サービス等)55。焙煎豆の100g換算の中央値は¥1,445(35件)、生豆は¥359(55件)です。

精製が商品名に書かれている銘柄は52件(ウォッシュト41、ナチュラル7、アナエロビック3、ハニー1)で、残る230件は精製が書かれていません。焙煎度が書かれている焙煎豆は28件で、内訳は深煎り15・中煎り6・中深煎り5・浅煎り2です。

見出し語(商品名の照合) 銘柄 店 生豆 焙煎豆 焙煎豆の中央値/100g 生豆の中央値/100g
SHB 177 13 121 10 ¥1,930 ¥340
アンティグア 51 6 35 1 ¥900 ¥438
ブルボン 28 4 20 0 — ¥235
コバン 15 2 12 0 — ¥293
ウエウエテナンゴ 14 3 6 6 — —
パカマラ 11 5 2 9 ¥832 —
ゲイシャ 9 6 4 4 ¥14,560 —
アティトラン 6 4 5 0 — ¥496
アカテナンゴ 3 1 2 0 — —
サンマルコス 1 1 1 0 — —
フライハネス 0 0 0 0 — —

(100g換算は在庫のある行の最安値。中央値は5件未満のときは出していません。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。見出し語のどれにも当たらない銘柄が55件あります)

読み取れることが3つあります。

  1. SHBが282件中177件、店の31のうち13が扱う。産地区分より先に、まず等級だけを書く商品名が多数派です
  2. アンティグアが産地区分の中で最多(51件・6店)。8区分のうち商品名に現れる頻度に大きな差があり、アティトラン・フライハーネス・サンマルコスは扱いが薄いか、この観測時点では0件です
  3. ゲイシャの焙煎豆は100gあたり¥14,560という高値(4件)。パカマラも焙煎豆の扱いが9件と生豆の2件を上回っていて、この2品種は農園やロットの個性を前面に出す商品として、SHBだけの商品名とは別の売り方をされています

焙煎豆は焙煎豆相場ボード(グアテマラ絞り込み)で日ごとの分布が見られます。生豆は生豆価格ボードで、産地×規格の組み合わせが店をまたいで並びます。

買うときの目安

  • まず1袋なら「グアテマラ SHB」の中深煎り〜深煎り。標高規格だけの商品名でも、火山性土壌の産地に典型として語られる重めのボディは目安になります
  • 産地区分で選ぶなら、まずアンティグアかウエウエテナンゴ。観測でも扱う店が多く、比べやすい2区分です。同じSHBでも、火山性のアンティグアと非火山性のウエウエテナンゴでは土台が違います
  • 品種名が書いてあれば、それが商品の軸。パカマラやゲイシャを冠した商品は、農園やロットを前面に出す売り方をしているので、産地区分よりそちらを手がかりに探すほうが早い場合があります
  • さび病の影響は続いています。2024/25年に発生率が上がり、耐性品種への更新は約3割の段階で、生産構造はまだ移行の途中です

まとめ — グアテマラの選び方3ステップ

  1. 記号を分けて読む: SHBは標高規格であって産地名でも品種名でもない。産地区分(アンティグア、ウエウエテナンゴ等)と農園名がついて初めて場所が絞られる
  2. 軸で位置を掴む: 太平洋側の火山列(アンティグア・アカテナンゴ・サンマルコス・フライハーネス)、非火山の北西高地(ウエウエテナンゴ)、多雨のカリブ側(コバン)
  3. 品種で個性を探す: 主流のブルボン系に対し、パカマラ・ゲイシャは農園単位の商品として棚に出てくる

SHBという等級だけで語られがちな産地ですが、産地区分と品種まで見ていくと、火山性の土壌と非火山の高地という別々の土台が見えてきます。