宇治は、日本の茶産地マップで「覆い(玉露・てん茶)、普通蒸し」の産地として紹介した京都府南部の茶産地です。ただ、「宇治茶」の一語がそのまま宇治市産を意味するわけではなく、専門店の商品名には和束・南山城・宇治田原・京田辺のような市町村名も並びます。この記事では京都府南部の産地の位置関係を木津川・宇治川の水系で整理し、「宇治茶」という名前のつまずきを解いたうえで、国内89銘柄・41店の実測につなげます。煎茶・玉露・抹茶の違いで扱った覆い・蒸しの基礎は本記事では繰り返さず、そちらを参照してください。静岡茶入門と合わせて読むと、産地ごとの名前の付き方の違いが見えてきます。

宇治はどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 行政区分としての宇治市だけでなく、複数の市町村にまたがる産地の集合です。京都府内の主産地として和束町、南山城村、宇治田原町、京田辺市、八幡市が挙げられます(Wikipedia「宇治茶」の記述)
  2. 京都府の栽培面積は主産県のなかで4位とされます(1位静岡、2位鹿児島、3位三重、4位京都、5位福岡。上位3県で全国の約7割)。荒茶生産量は1960年代後半以降、おおむね年3,000t程度で推移してきたとされています(この2つの数値の農林水産省の原典は本サイトの調査では確認できていません)
  3. 覆い栽培(碾茶・玉露)の比重が他産地より大きい産地です。京都府茶業会議所は宇治抹茶・宇治煎茶・宇治玉露を並べて紹介しています。全国の碾茶生産量は2014年比で約2.7倍に増加したとされ、2024年の全国の緑茶輸出額364億円のうち粉末状(抹茶等)が272億円・5,092tと、輸出額全体の4分の3を占めています

地図で読む — 木津川・宇治川と京都府南部の産地

区分 郡・位置 水系 特徴
和束町 相楽郡 木津川上流の山間 面積64.93km²・人口2,882人(2026年8月1日推計)。京都府の煎茶の約47%を生産するとされ、2008年に京都府景観資産の第1号、2013年に「日本で最も美しい村」連合に加盟
南山城村 相楽郡 木津川上流の山間 京都府内の主産地の一つとして挙げられる
京田辺市 山城地域 木津川下流・京都府南端 京都府内の主産地の一つとして挙げられる
八幡市 山城地域 木津川・宇治川・桂川の合流点付近 京都府内の主産地の一つとして挙げられる
宇治田原町 綴喜郡 宇治川水系の山間。宇治市・城陽市・滋賀県大津市/甲賀市に接する 面積58.16km²・人口8,323人(同時点)。1956年に宇治田原村と田原村が合併して成立。永谷宗円の出身地として「日本緑茶発祥の地」を名乗る
宇治市 — 宇治川沿い 京都府茶業会議所(宇治茶会館)の所在地

木津川は和束町・南山城村の山間を流れ、京田辺市・八幡市の付近で宇治川・桂川と合流します。宇治川は琵琶湖から流れ出して宇治市を経てこの合流点へ向かい、隣接する宇治田原町はこの宇治川水系の支流域にあたります。つまり和束・南山城が木津川上流の山間、京田辺・八幡が木津川下流の合流点付近、宇治市・宇治田原が宇治川沿いという、二つの水系にまたがる市町村の集合が「宇治茶」の産地です。宇治市そのものは、産地の広がりのなかでは京都府茶業会議所の所在地という位置づけが大きく、煎茶の生産では和束町が京都府の約47%を占めるとされます。

名前のつまずき

京都府外から宇治の茶を見るときに、つまずきやすい点が3つあります。

「宇治茶」は宇治市産という意味ではない

「宇治茶」は、京都府茶業会議所が平成16年(2004年)に定めた名称で、京都・奈良・滋賀・三重の四府県産の茶葉を、京都府内の業者が府内で仕上げ加工したもの(京都府産の茶葉を優先する)を指します。1961年に商標登録もされています。つまり茶葉そのものの産地は必ずしも京都府内に限らず、仕上げ加工の所在地が京都府であることが条件になっている名称です。1584年に豊臣秀吉が宇治以外の産地に「宇治茶」を名乗ることを禁じたとされ、名称の保護は戦国時代までさかのぼるとされています。

「宇治」は問屋の社名であることもある

宇治森徳・宇治の露製茶・宇治園といった社名には「宇治」が入りますが、これらの会社が扱う商品には静岡や九州など他県産の茶葉も含まれます。「宇治森徳 静岡銘茶詰合せ」のように商品名に別の産地名が明記されている場合は、その産地の茶葉で「宇治」は社名にすぎません。産地としての宇治茶を探す場合は、「宇治茶」「宇治抹茶」「京都宇治」のように産地として明記された表記か、和束・宇治田原・南山城といった下位地名を手がかりにするほうが確実です。

「宇治抹茶」「宇治玉露」「宇治煎茶」は覆いの有無で分かれる別の茶種

京都府茶業会議所は宇治抹茶・宇治煎茶・宇治玉露を並べて紹介しています。抹茶の原料になる碾茶と玉露は覆いをした茶園の葉から作られ、煎茶は覆いをしない露地栽培が中心です。覆いの日数や加工の違いは煎茶・玉露・抹茶の違いにまとめているので、そちらを参照してください。

覆いの茶と歴史

京都府茶業会議所は、鎌倉時代初期に中国から伝わった茶(現在の抹茶の原点)が宇治を中心に広まったとしています。13世紀には平等院付近で栽培が始まったとされ、1374年には「宇治茶」の名が文献に初めて現れます。室町時代後期には、茶畑を覆って直射日光を遮る覆下栽培が成立したとされます。1738年には宇治田原(湯屋谷)の永谷宗円が、蒸した茶葉を焙炉で揉みながら乾燥させる青製煎茶製法を考案したとされ、この製法が全国に広まりました。江戸時代後期には宇治郷小倉村で山本嘉兵衛が、覆下園の若い葉を煎茶と同じ工程で仕上げる茶を製して「新製 玉の露」と名付け、小倉の江口茂十郎が「玉露」を完成させたとされます(京都府・宇治市の資料)。明治初期には辻利右衛門が現在の棒状の形に仕上げたとされ、1879年に横浜で開催された第1回製茶共進会での特別賞受賞を記念して、宇治製茶記念碑が建てられました。江戸初期から幕末にかけては、碾茶を京都から江戸の将軍家へ運ぶ「お茶壺道中」の行列もありました。

収穫期を読む

一番茶(新茶)は4月から5月にかけて摘まれ、八十八夜(5月2日ごろ)前後が新茶の目安のひとつです。二番茶は6月から7月に摘まれます。碾茶(抹茶の原料)は一番茶の時期に多く作られます。令和6年産の玉露の荒茶生産量は三重県が全国1位です。八女の玉露は八女煎茶のページに観測した商品があります。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内の茶葉ECと楽天市場の出品のうち、産地が宇治と読める茶(ブレンドを除く)は89銘柄・41店でした(2026-09-13時点)。茶種の内訳は緑茶77・不明11・紅茶1です。

見出し語(題名照合) 銘柄 店 100g換算の中央値
玉露 17 6 ¥5,400
抹茶 25 16 ¥8,500
煎茶 16 13 ¥3,618
かぶせ茶 4 4 ¥4,050
碾茶 3 1 ¥6,900
ほうじ茶 9 3 ¥4,750
玄米茶 2 2 —
新茶 7 1 ¥6,900
和束 3 2 ¥2,384
宇治田原 14 2 ¥27,639
南山城 2 2 ¥4,103
京田辺 0 0 —
京都 27 13 ¥4,527
さみどり 2 1 ¥6,900
ごこう 3 1 ¥4,752
あさひ 1 1 ¥16,330
ティーバッグ 24 11 ¥5,400
有機 1 1 ¥1,708

(語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。どの見出し語にも当たらない銘柄が15件あります。100g換算の中央値は品目ごとに幅が大きく、抹茶や玉露のような少量高単価の品目が混ざるため、行ごとに読んでください。89銘柄全体の100g換算の中央値は¥4,752(39件)ですが、これは抹茶(¥8,500)や玉露(¥5,400)といった高単価の品目に引き上げられた数字で、「宇治茶の相場」として単独では読めません。宇治田原の中央値¥27,639も同様に、14件が2店に集中しており、そこに含まれる抹茶などの高単価品に引かれた値なので、そのまま「宇治田原は高い」とは読めません)

読み取れることが3つあります。

  1. 棚では宇治=抹茶の看板。抹茶25件・16店が最も多く、玉露17件・6店、煎茶16件・13店、ティーバッグ24件・11店と続きます。京都府茶業会議所が宇治抹茶・宇治玉露・宇治煎茶の3つを並べて紹介する構図が、そのまま棚にも出ています
  2. 町名はほとんど出ない。「京都」表記が27件・13店ある一方、下位地名は宇治田原14件・2店、和束3件・2店、南山城2件・2店にとどまり、京田辺は0件でした。前節で見た「宇治は問屋の社名でもある」という事情もあり、産地を示す語としては「宇治」「京都」がほとんどを占めます
  3. 収穫期の内訳は「不明」が大半(89件中79件)で、「新茶」10件と続きます。通年販売の商品が多く、収穫期を明記する商品はそのうちの一部にとどまります

緑茶の価格を店をまたいで比べるボードは無いため、価格の推移を見たい場合は産地ページの観測した商品から店単位でたどってください。

買うときの目安

  • 「宇治」の社名パターンに注意する。宇治森徳・宇治の露製茶・宇治園のような社名は問屋の名前で、商品名に静岡・九州などの産地名が別に書かれていれば、その産地の茶葉です
  • 抹茶は「抹茶入り」との違いを確認する。菓子や飲料の「抹茶入り」商品と、抹茶そのものは同じ「抹茶」の語で並ぶため、内容量と価格帯から見分ける必要があります
  • 単一産地を重視するなら、下位地名か「宇治茶100%」の表記を確認する。和束・宇治田原・南山城のような町名、または産地の明記を手がかりにしてください。棚には「宇治」「京都」の表記が多く、町名は限られた語でしか出てきません
  • 収穫期は「新茶」「八十八夜」の文字で見分ける。一番茶は4〜5月、二番茶は6〜7月に摘まれ、年号や等級を示す言葉ではありません

品種名(やぶきた・ごこう・さみどり・うじひかり・うじみどり・おくみどり)を手がかりに探す場合は品種図鑑も使えます。緑茶・新茶という言葉そのものの定義は緑茶の用語ページにまとめています。

まとめ — 宇治の読み方3ステップ

  1. 地図で位置を掴む: 和束・南山城は木津川上流の山間、京田辺・八幡は木津川と宇治川・桂川の合流点付近、宇治田原は宇治川水系の支流域、宇治市は宇治川沿いで京都府茶業会議所の所在地
  2. 名前のつまずきを外す: 「宇治茶」は宇治市産という意味ではなく2004年に定義された名称、「宇治」は問屋の社名のこともある、宇治抹茶・宇治玉露・宇治煎茶は覆いの有無で分かれる別の茶種
  3. 棚では地名より抹茶の看板で探す: 抹茶・玉露・煎茶が商品名の主役で、下位地名は宇治田原・和束・南山城を合わせても19件にとどまる。単一産地を重視するなら、商品名の下位地名か「宇治茶100%」の表記を確認する

「宇治茶」という一つの名前の裏に、木津川・宇治川という二つの水系にまたがる産地と、地名より抹茶で語られる棚がある——京都府南部を歩くときは、地図と名称の定義の両方を手がかりにしてください。日本の茶産地マップで他の産地と比べたり、水出し緑茶や六大茶類で緑茶そのものの位置づけを確認するのも助けになります。