鹿児島は、日本の茶産地マップで「生産量では静岡と鹿児島が二大産地」と紹介した県のひとつです。令和6年産の荒茶生産量は27,000t・全国シェア36.5%で全国1位、長崎税関の資料は統計開始以来はじめての1位になったと記載しています(農林水産省の原統計ページは本サイトの調査では未確認)。ただ、県内をひとくくりに「鹿児島茶」と呼ぶ商品と、「知覧」「霧島」のように市の名前まで書く商品が同じ棚に並び、県の外からは位置関係も名前の由来もつかみにくい産地です。この記事では県内の産地区分を位置関係で整理し、「知覧茶」という名前のつまずきを解いたうえで、国内175銘柄・26店の実測につなげます。煎茶・玉露・抹茶の違いで扱った覆い・蒸しの基礎は本記事では繰り返さず、そちらを参照してください。静岡茶入門・宇治茶入門と合わせて読むと、産地ごとの名前の付き方の違いが見えてきます。

鹿児島はどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 令和6年産の荒茶生産量が全国1位、栽培面積は全国2位です。荒茶生産量27,000t・全国シェア36.5%を鹿児島県が記載し、長崎税関の資料はこれが統計開始以来はじめての1位だったと記載しています(農林水産省の原統計は未確認)。栽培面積は8,150ha・シェア23.2%で、静岡県に次ぐ全国2位です。品目別では順位が動き、令和7年産の一番茶に限ると荒茶生産量は鹿児島8,440t・静岡8,120tと報じられています
  2. 一つの産地ではなく、県内に複数のブランド産地が並ぶ集合です。鹿児島県茶生産協会の産地紹介は南九州市・霧島市・志布志市・枕崎市など市町村単位で、知覧・頴娃・溝辺・有明という地区名の個別ページはありません。加えて種子島・屋久島など離島にも茶園があります
  3. 茶園の99.6%が平坦地(全国平均52.3%)で、乗用型摘採機による大規模な摘採が中心とされ、一部でロボット摘採機も使われています。品種構成もやぶきた比率が約30%(全国平均は約70%)にとどまり、多様な品種で作られる産地です

地図で読む — 県内の産地ブランド

鹿児島県茶生産協会の産地紹介は市町村単位ですが、県内の主要な産地の地区名を位置で整理すると次のようになります。

区分 位置 特徴
知覧・頴娃 南九州市(薩摩半島南部・南薩台地) 令和7年度の栽培面積は3,371ha、荒茶生産量は14,542t(南九州市の茶業統計)。全国茶品評会「普通煎茶10kgの部」の産地賞を連続受賞し、2024年(第78回)で5年連続1位。2025年は霧島市に産地賞を譲ったとされる
霧島・溝辺 霧島市 2007年にブランド名を統一。全国茶品評会で7回産地賞を受賞し、有機JAS認証茶園面積は日本一とされる
志布志・有明 志布志市・大隅半島 県内で知覧に次ぐ茶園面積・荒茶生産量を持つとされる(原文は本サイトの調査では未読)
枕崎 薩摩半島南西 昭和初期からの和紅茶(国産紅茶)産地として紹介されることがある(原文未確認)
屋久島(離島) 大隅半島南方の離島 気候・栽培条件が県本土と異なる離島産で、鹿児島県内ではあるが県本土の産地とは分けて考える必要がある

知覧・頴娃は薩摩半島南部の南薩台地に位置し、県内で最も名前の出る産地区分です。霧島・溝辺は薩摩半島の付け根に近い霧島市、志布志・有明は海を挟んで反対側の大隅半島にあり、県内の茶産地は薩摩半島と大隅半島の両方、さらに離島にまで広がっています。県全体では茶園の99.6%が平坦地という前節の数字は、こうした複数の産地に共通する地形の特徴です。

名前のつまずき

県外から鹿児島の茶を見るときに、つまずきやすい点が3つあります。

「知覧茶」は南九州市が2017年に統一した産地ブランド名

南九州市は2007年12月1日に知覧町・川辺町・頴娃町が合併して発足しましたが、合併後もしばらくは「知覧茶」「川辺茶」「頴娃茶」の3つのブランド名が並立していました。この3銘柄を「知覧茶」に統一する取組みが2017年4月に始まったとされています。つまり「知覧茶」は市町村合併と同時に一本化された名前ではなく、合併から10年ほどをかけて統一された、比較的新しい産地ブランド名です。「鹿児島茶」は県単位の総称で、「知覧茶」はそのなかの一つの下位ブランドという関係にあり、この二つの表記が商品名に併用されます。霧島・志布志など知覧以外の産地ブランドも県内に複数あり、それぞれ独自の品評会実績を持っています。

やぶきた一色ではなく、品種名が商品名の前面に出やすい

鹿児島県のやぶきた比率は約30%で、全国平均の約70%を大きく下回るとされています。知覧茶に限ると、ゆたかみどり・やぶきた・さえみどり・あさつゆの4品種で、植栽されている品種の約8割を占め、やぶきた以外の品種が主力に含まれています。さえみどりは1969年に枕崎(農林省茶業試験場枕崎支場)で「やぶきた」を母、「あさつゆ」を父として交配され、一番茶の新葉の色沢が鮮緑であることから命名されたと南九州市が記載しています。登録年は、1990年(茶農林40号)とする資料と、農研機構の茶品種ハンドブックの1991年11月19日(登録番号2881)とする資料があり、割れています。この品種構成の違いから、鹿児島の専門店の商品名には「さえみどり」「あさつゆ」「おくみどり」「ゆたかみどり」のようなひらがな表記の品種名が先頭に並ぶ型が目立ちます。

「走り新茶」は全国最速の収穫期であって、等級ではない

鹿児島県は新茶の出荷が「3月末頃から」始まると記載しています。種子島(西之表市・南種子町)では県本土よりさらに早い3月下旬から収穫され「大走り新茶」、県本土は4月前半に「走り新茶」として流通し、全国で最も早い新茶の産地とされていますが、この呼称の一次資料は本サイトの調査では確認できていません(未確認)。つまり「走り新茶」は摘採の時期がほかの産地より早いことを示す言葉であり、それ自体が上級・高級といった等級を意味するわけではありません。

収穫期を読む

鹿児島県は摘採が4月上旬の一番茶に始まり、二番茶・三番茶を経て8月中旬の四番茶まで、途切れることなく続けられるとされています。県は三番茶以降の生産量が全国の約4割を占めるとも記載しており、一番茶に生産が偏らない構造がうかがえます。

摘採 時期の目安 備考
一番茶(新茶) 4月上旬〜(県本土は4月前半に「走り新茶」) 種子島は3月下旬から「大走り新茶」(呼称の一次資料は未確認)
二番茶・三番茶 一番茶に続く期間 三番茶以降の生産量が全国の約4割を占めるとされる
四番茶 〜8月中旬 途切れることなく摘採が続けられるとされる

碾茶(抹茶の原料)と紅茶については、令和7年(度)の生産量がそれぞれ2,670t・158tで、いずれも全国1位と鹿児島県茶業会議所が記載しています。令和6年産の玉露の荒茶生産量は三重県が全国1位で、鹿児島は覆いの茶よりも露地栽培の煎茶が中心の産地です。玉露やかぶせ茶の定義は煎茶・玉露・抹茶の違いを参照してください。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内の茶葉ECと楽天市場の出品のうち、産地が鹿児島と読める茶(ブレンドを除く)は175銘柄・26店でした(catalog 2026-09-13時点。この集計は産地「知覧」の商品を「鹿児島」に含めて数えています)。茶種の内訳は緑茶152・不明19・紅茶4です。

見出し語(題名照合) 銘柄 店 100g換算の中央値
知覧 24 14 ¥1,669
頴娃 1 1 ¥5,702
霧島 11 3 ¥1,512
志布志 0 0 —
有明 0 0 —
溝辺 0 0 —
枕崎 0 0 —
屋久島 1 1 —
南九州 0 0 —
煎茶 79 14 ¥1,751
深蒸し 8 7 ¥3,484
かぶせ茶 2 2 ¥2,091
玉露 1 1 ¥3,375
抹茶 16 3 ¥10,620
ほうじ茶 22 1 ¥1,519
新茶 6 3 ¥3,556
やぶきた 1 1 ¥3,866
ゆたかみどり 5 4 ¥1,225
さえみどり 8 2 ¥1,701
あさつゆ 8 3 ¥4,376
おくみどり 8 2 ¥1,599
有機 7 4 ¥1,897
ティーバッグ 35 5 ¥10,534

(語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。どの見出し語にも当たらない銘柄が36件あります。100g換算の中央値は品目ごとに幅が大きく、抹茶やティーバッグのような品目が混ざるため、行ごとに読んでください。175銘柄全体の100g換算の中央値は¥2,916(85件)ですが、これは抹茶(¥10,620)やティーバッグ(¥10,534)のような高単価の品目に引き上げられた数字で、「鹿児島茶の相場」として単独では読めません)

読み取れることが3つあります。

  1. 棚では知覧が地名の看板で、品種名も静岡より前面に出る。知覧は24件・14店と、志布志・有明・溝辺・枕崎・南九州が0件のなかで唯一まとまった件数があり、複数の店にまたがって使われる地名です。一方でさえみどり8件・あさつゆ8件・おくみどり8件・ゆたかみどり5件と、品種名もまとまった件数で出てきます。やぶきたはわずか1件・1店にとどまり、前節で見た「やぶきた比率が低い」という統計と、棚での品種名の出方が一致しています
  2. 知覧以外の産地ブランドは商品名にほとんど出ない。霧島は11件・3店ある一方、志布志・有明・溝辺・枕崎・南九州は0件でした。県内の主要な産地区分であっても、観測対象の店の商品名には現れないブランドがあります
  3. 品種名やほうじ茶の集計は少数の店への集中に注意が必要。さえみどり・おくみどり・ゆたかみどりはいずれも店数が2〜4店にとどまり、ほうじ茶にいたっては22件が1店に集中しています。調査票の注記どおり、観測対象のうち1店が件数の大半を占めているため、件数の多さをそのまま産地全体の傾向として読むことはできません

収穫期を明記した商品は少なく、175件中164件が「不明」で、「新茶」11件にとどまります。緑茶の価格を店をまたいで比べるボードは無いため、価格の推移を見たい場合は産地ページの観測した商品から店単位でたどってください。

買うときの目安

  • 「知覧茶」と「鹿児島茶」の違いを商品名で確認する。知覧茶は南九州市が2017年に統一した下位ブランド名、鹿児島茶は県単位の総称です。単一産地であることを重視するなら、知覧・霧島のような下位地名が書いてあるかを確認してください
  • 品種名で選ぶ場合は、ひらがな表記に注目する。さえみどり・あさつゆ・おくみどり・ゆたかみどりのような品種名が商品名の先頭に並ぶことが多く、やぶきた一色ではない産地です。ただし観測店の構成によって品種名の出方に偏りがあるため、件数の多さだけで判断しないでください
  • 「走り新茶」「大走り新茶」は時期の表示であって等級ではないので、年号や品種名もあわせて確認してください
  • 知覧以外の産地ブランド(霧島・志布志など)を探すなら、商品名よりも産地ページから店単位でたどるほうが早い場合があります。観測対象の店の商品名には現れにくい産地ブランドです
  • 「鹿児島」表記に屋久島など離島産が混じることがある点にも注意してください。県本土の産地とは気候・栽培条件が異なります

品種名(やぶきた・さえみどり・あさつゆ・おくみどり)を手がかりに探す場合は品種図鑑も使えます。緑茶・新茶という言葉そのものの定義は緑茶の用語ページにまとめています。

まとめ — 鹿児島の読み方3ステップ

  1. 地図で位置を掴む: 知覧・頴娃は薩摩半島南部の南九州市、霧島・溝辺は薩摩半島の付け根に近い霧島市、志布志・有明は大隅半島、枕崎は薩摩半島南西、屋久島は離島
  2. 名前のつまずきを外す: 知覧茶は南九州市が2017年に統一した下位ブランド名で鹿児島茶(県単位の総称)とは別の階層、品種はやぶきた一色ではなくさえみどり・あさつゆなどが主力、走り新茶は等級ではなく収穫期の早さを示す言葉
  3. 棚では知覧の地名と品種名の両方で探す: 知覧24件・14店に加え、さえみどり・あさつゆ・おくみどりのような品種名もまとまって出るが、店数の少なさに注意する。霧島以外の産地ブランドは商品名にほとんど出ない

「鹿児島茶」という一つの県単位の名前の裏に、知覧・霧島・志布志という複数のブランド産地と、地名と品種名の両方で語られる棚がある——県内を歩くときは、地図と名前の階層の両方を手がかりにしてください。日本の茶産地マップで他の産地と比べたり、水出し緑茶で緑茶そのものの位置づけを確認するのも助けになります。