静岡は、日本の茶産地マップで「生産量では静岡と鹿児島が二大産地」と紹介した県のひとつです。ただ、県内をひとくくりに「静岡茶」と呼ぶ商品と、「牧之原」「川根」「本山」のように市町村や川の名前まで書く商品が同じ棚に並び、県の外からは位置関係がつかみにくい産地でもあります。この記事では県内の産地区分を大井川・安倍川・天竜川の川筋で整理し、「静岡茶」「深蒸し」「新茶」という3つの言葉のつまずきを解いたうえで、国内53店・148銘柄の実測につなげます。煎茶・玉露・抹茶の違いで扱った覆い・蒸しの基礎は本記事では繰り返さず、そちらを参照してください。

静岡はどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 茶栽培面積は全国の34.7%で、全国1位です(2025年7月15日時点、静岡県)。ただし生産量の首位は近年揺れています。2020年の荒茶生産量は全国の36%で1位でしたが、令和6年産(2024年)は鹿児島県が統計開始以来はじめて1位(27,000トン)となり、静岡県は25,800トンの2位だったと報じられています(この数値の農林水産省の原典は本サイトの調査では確認できていません)
  2. 一つの平野ではなく、東西に長い産地の集合です。富士山南麓から浜名湖の東岸まで、大井川・安倍川・天竜川など複数の川が刻む台地と山間部に茶園が分布します。静岡県茶業会議所は県内の主要産地を8つの区分で紹介しています
  3. 令和6年度の全国の品種構成で64%を占める品種「やぶきた」の選抜地です。杉山彦三郎が1908年に静岡市内で選抜し、種母樹は静岡市駿河区谷田にあり、1963年に県の天然記念物に指定されています。県内の茶栽培そのものの発祥地は、これとは別に足久保(現・静岡市葵区)とされています

地図で読む — 川筋と台地・山間

静岡県茶業会議所は県内の主要な茶産地を8つの区分で紹介しています。位置関係を川筋で整理すると次のようになります。

区分 位置・地形 特徴
牧之原 大井川西岸の台地 明治以降に開かれた、県内で栽培面積が最も広い産地
中遠 小笠山・牧之原周辺 深蒸し茶の産地として紹介される
川根 大井川上流の山間 —
志太 藤枝・島田・岡部の山間 朝比奈川上流に玉露の産地がある
本山 安倍川流域 県内の茶栽培発祥地とされる足久保を含む
清水 旧清水市。日本平・興津川沿い —
西遠 太田川上流・天竜川流域 —
富士・沼津 富士山南西斜面 —

このうち牧之原台地は大井川と菊川の間、島田市・牧之原市・菊川市にまたがり、北端の標高が約270m、南端が40〜50mで、全長約25kmを北から南へ緩やかに傾斜します。土壌は礫混じりの赤土で排水がよく弱酸性、国営牧之原土地改良事業(昭和53〜平成9年度)で延長93.5kmの用水路が整備されました。もとは1869年(明治2年)に旧幕臣が開墾に着手した土地で、士族と、大井川の川渡しの職を失った川越人足が入植しました(士族は約250〜300人、川越人足は33人とその家族とする資料と約100人とする資料があります)。県内で栽培面積が最も広い産地であることに加え、深蒸し茶はこの牧之原周辺で生まれた製法とされています。

商品名に出る「掛川」は、この8区分でいう中遠にあたる市のひとつです。同じく商品名に出てくる「森町」のような、区分よりさらに小さな市町村名も、専門店の商品名には現れます。牧之原(大井川西岸)と川根(大井川上流)が同じ大井川沿いにありながら台地と山間で性格が分かれる一方、本山は安倍川、西遠・天竜は天竜川という、それぞれ別の川筋に沿った産地です。

名前のつまずき

県外から静岡の茶を見るときに、つまずきやすい言葉が3つあります。

「静岡茶」は県の総称

「静岡茶」の表示は静岡県内産の茶葉100%を指すとされ、「静岡茶ブレンド」は最終加工地が静岡県内で、県内産の配合比率が50%以上100%未満のものを指すとされています(この基準の原文は本サイトの調査では未読で、要約に基づきます)。つまり「静岡茶」は牧之原・川根・本山のような下位の産地区分をひとまとめにした県全体の呼び名で、単一の産地を指す言葉ではありません。専門店の商品名は「やぶきた 本山」のように品種と下位地名を組み合わせる型が多い一方、贈答用の商品は「静岡銘茶詰合せ」のように産地名と「銘茶」だけを書き、下位地名や品種を省くことが多くあります。栽培面積が県内最大の牧之原や、山間の川根の名前が、こうした贈答型の商品名にはほとんど出てこないのはこのためです。

「深蒸し」は産地ではなく製法

「深蒸し」は蒸し時間を長くする製法の名前で、産地名ではありません。深蒸し茶は葉が細かく砕けるぶん湯に溶け出す成分が多くなり、水色が濃くなるとされています(蒸し時間の詳しい定義や秒数は本サイトでは未確認です)。この製法は牧之原周辺で生まれたとされ、中遠(掛川を含む)も深蒸し茶の産地として紹介されるため、商品名では「牧之原」「掛川」といった台地の産地名と「深蒸し」がセットで書かれることが多くなります。ただし製法自体はどの産地でも作れるので、「深蒸し」という語だけでは産地は特定できません。覆い(玉露・かぶせ茶)との違いは煎茶・玉露・抹茶の違いを参照してください。

「新茶」は収穫期であって品質等級ではない

一番茶(新茶)は4月から5月にかけて摘まれ、八十八夜(立春から88日目、5月2日ごろ)が新茶の目安のひとつとされています。二番茶は6月から7月に摘まれ、和紅茶(国産紅茶)に加工される場合は「セカンドフラッシュ」と紅茶の呼び方で書かれることもあります。秋に摘む「秋茶」を書く商品名も一部に見られます。年号が入った商品の多くはその年の新茶または和紅茶で、通年販売の煎茶ギフトには年号が付かないのが一般的です。つまり「新茶」は摘採の時期を示す言葉であり、それ自体が上級・高級といった等級を意味するわけではありません。

収穫期を読む

静岡の茶園の収穫期はおおむね4月から7月に集中し、それぞれの摘採で商品名の書かれ方が変わります。

摘採 時期の目安 商品名での書かれ方
一番茶(新茶) 4〜5月 「新茶」「◯◯年 新茶」。年号が付くことが多い
二番茶 6〜7月 「二番茶」「セカンドフラッシュ」(和紅茶の場合)
秋茶 秋 「秋茶」。一部の商品名に見られる

静岡県内の玉露産地は志太(岡部・朝比奈川上流)で、令和6年産の玉露の荒茶生産量は三重県が全国1位です。玉露やかぶせ茶は覆い(被覆栽培)の日数で決まる茶種で、収穫期そのものとは別の軸です。詳しくは煎茶・玉露・抹茶の違いを参照してください。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内の茶葉ECと楽天市場の出品のうち、産地が静岡と読める茶(ブレンドを除く)は148銘柄・53店でした(2026-09-13時点)。茶種の内訳は緑茶99・不明32・紅茶16・烏龍茶1です。

見出し語(題名照合) 銘柄 店 100g換算の中央値
掛川 3 3 ¥2,239
牧之原 0 0 —
川根 0 0 —
本山 9 5 ¥3,658
天竜 4 4 ¥4,142
清水 2 1 ¥11,520
藤枝 1 1 ¥4,324
森町 1 1 —
深蒸し 11 10 ¥1,126
新茶 13 6 ¥4,000
煎茶 38 20 ¥4,253
玉露 7 5 ¥13,273
抹茶 10 8 ¥1,770
ほうじ茶 13 7 ¥2,628
やぶきた 10 5 ¥4,253
有機 4 3 ¥39,847
ティーバッグ 13 9 ¥918

(語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。どの見出し語にも当たらない銘柄が59件あります。100g換算の中央値は品目ごとに幅が大きく、抹茶や玉露のような少量高単価の品目が混ざるため、行ごとに読んでください。148銘柄全体の100g換算の中央値は¥4,000(89件)ですが、これは有機(¥39,847)や玉露(¥13,273)のような高単価の品目に引き上げられた数字で、「静岡茶の相場」として単独では読めません)

読み取れることが3つあります。

  1. 棚では市町村名より製法・茶種で書かれる。台地の下位地名は掛川が3件、牧之原・川根が0件なのに対し、深蒸し11件、煎茶38件、新茶13件と、製法や茶種を示す語のほうがはるかに多く出てきます。前節で見た「静岡茶」の総称化と、贈答型の商品名が下位地名を省く傾向が、この差に表れています
  2. 牧之原・川根は商品名に0件。県内で栽培面積が最も広い産地区分であっても、観測対象の店の商品名にはこの2語が現れませんでした。産地区分の名前と、商品名に書かれる語は別物だということが数字にも出ています
  3. 収穫期の内訳では「不明」が大半(148件中117件)で、「新茶」25件、「セカンドフラッシュ」4件、「ファーストフラッシュ」2件と続きます。通年販売の商品が多く、収穫期を明記する商品はそのうちの一部にとどまります

緑茶の価格を店をまたいで比べるボードは無いため、価格の推移を見たい場合は産地ページの観測した商品から店単位でたどってください。

買うときの目安

  • まず1つなら「深蒸し」の煎茶。牧之原・中遠周辺で生まれたとされる製法で、静岡の棚でもっとも多く出てくる語のひとつです
  • 下位地名で選ぶなら、商品名に地名が書いてあるものを探す。本山(安倍川流域)・天竜(天竜川流域)・掛川(中遠)のように地名付きの商品は、贈答型の「静岡銘茶」よりも産地を絞り込めます。牧之原・川根は商品名には出にくいので、産地ページから店単位でたどるほうが早い場合があります
  • 玉露は志太(藤枝・岡部、朝比奈川上流)を手がかりに探す。令和6年産の玉露の荒茶生産量は三重県が全国1位で、静岡は志太を中心とする玉露産地のひとつです
  • 「新茶」は時期の表示であって等級ではないので、年号や「新茶」の文字だけでなく、品種名や茶種(煎茶・深蒸し・玉露)もあわせて確認してください
  • 単一産地であることを重視するなら「静岡茶100%」の表記を確認する。「静岡茶ブレンド」は県内産の配合比率が50%以上100%未満のものを含むとされています

品種名(やぶきた・さえみどり・おくみどり・つゆひかり・あさつゆ)を手がかりに探す場合は品種図鑑も使えます。緑茶・新茶という言葉そのものの定義は緑茶の用語ページにまとめています。福岡・八女の玉露産地は八女煎茶のページに観測した商品があります。

まとめ — 静岡の読み方3ステップ

  1. 地図で位置を掴む: 牧之原・中遠(掛川を含む)は大井川西岸から小笠山周辺の台地、川根は大井川上流の山間、本山は安倍川流域、志太(藤枝を含む)の山間に玉露、西遠・天竜は天竜川流域、清水は日本平・興津川沿い
  2. 名前のつまずきを外す: 静岡茶は県の総称、深蒸しは産地ではなく製法、新茶は収穫期であって等級ではない
  3. 棚では地名より製法・茶種で探す: 深蒸し・煎茶・やぶきたが商品名の主役で、下位地名は本山・天竜・掛川のように限られた語で出てくる。牧之原・川根のように栽培面積の大きい産地でも、商品名には出にくいことがある

「静岡茶」という一つの名前の裏に、川筋で分かれた複数の産地と、地名より製法で語られる棚がある——県内を歩くときは、地図と製法の両方を手がかりにしてください。日本の茶産地マップで他の産地と比べたり、水出し緑茶や六大茶類で緑茶そのものの位置づけを確認するのも助けになります。