「コスタリカ タラス ハニー」——コスタリカのコーヒーの商品名は、産地区分と精製の両方が並ぶ書き方が中心です。グアテマラと同じくSHBという標高規格を使う隣国ですが、コスタリカの棚で目立つのは規格より精製、それもハニープロセスです。この記事ではICAFE(コスタリカコーヒー協会)が定める8つの産地区分の位置関係と、ハニーが広まった背景にあるマイクロミルという生産の仕組み、SHBという規格の読み方を、国内の棚の実測とあわせて整理します。

コスタリカはどういう産地か

まず輪郭を3つ。

  1. 国内のコーヒー産地区分はICAFE(Instituto del Café de Costa Rica)が定める。ICAFEは1933年にInstituto de Defensa del Caféとして設立され、1948年に現在の名称(Instituto del Café de Costa Rica)へ改称されました。国家機関ではなく法No.2762に基づく公法人で、財源は輸出コーヒーのFOB価格の最大1.5%(46kg単位あたり)にあたる輸出税です
  2. 1989年制定の法律(1988年の政令とする報道もあります)で長らくロブスタ種の栽培が禁止されていました。2018年にこの禁止が解禁されましたが、ICAFEが指定する特定区域に限り、アラビカとの混在を防ぐことが条件です。解禁後も生産の大半はアラビカのままとされ、周辺の中米諸国のようにロブスタが商品名に出てくることはほとんどありません
  3. 増産でも農家の利益は限定的、と報じられています。USDAの2026年版の予測ではMY2026/27の生産量は前年比3.5%増の120万袋(60kg換算)、輸出予測は同3.9%増の106万袋ですが、通貨高・国際価格の下落・生産コストの上昇が重なり、増産分がそのまま収益に結びついていないと報じられています

産地の地図 — ICAFEの区分(2025年の再編前は8つ)

ICAFEは2025年に産地区分を再編し、7つ(コト・ブルス、ロス・サントス、ペレス・セレドン、トゥリアルバ、バジェ・セントラル、バジェ・オクシデンタル、ソナ・ノルテ)にまとめました。トレスリオスとオロシは他の区分に統合され、旧タラス地域はロス・サントスに改称されています。「タラス(Tarrazú)」の名は、2019年に登録された原産地呼称の名として残り、管理団体だけが使えます。商品名には今も再編前の区分名が使われるので、下の表は再編前の8区分で整理しています。

産地区分 位置・地質 標高 生産量の目安
タラス 国内最大の産地区分 1,200〜1,900m 国内生産の約35%
セントラルバレー イラス・バルバ・ポアス火山の影響を受ける歴史的中心地 800〜1,600m(コーヒーの木の80%超は1,000〜1,400m) 未取得
ウエストバレー 同じくイラス・バルバ・ポアス火山の影響を受ける歴史的中心地 800〜1,400m 未取得
トレスリオス イラス火山の土壌の影響を受ける比較的均一な小地域 1,200〜1,650m 未取得
ブルンカ 太平洋側南部の中標高地域 900〜1,400m 国内生産の約5分の1
オロシ 中央部の中標高地域 約1,000〜1,400m 未取得
トゥリアルバ 大西洋側の気候の影響を受ける 約600〜1,400mとされる 未取得
グアナカステ 位置・標高とも今回の調査では未取得 未取得 未取得

(セントラルバレーは標高800〜1,600mに広がり、コーヒーの木の80%超が標高1,000〜1,400mで栽培されます。収穫期は11月から2月にかけてが一般的とされ、トゥリアルバは大西洋側の気候の影響で開花が複数回起こり、収穫期が早期化・長期化する傾向があるとされます。グアナカステは今回参照した産地解説に標高・地質の記載がなく、表でも空欄にしています)

位置関係を掴む

地図で位置関係を掴むなら、軸は3本です。

1つは国土中央の火山地帯。セントラルバレーとウエストバレーは、イラス・バルバ・ポアスという複数の火山の影響を受ける歴史的な中心地で、ウエストバレーの栽培地は標高800〜1,400mに広がります。同じイラス火山の土壌の影響を受けるトレスリオスは、比較的均一な小地域です。

もう1つは国内最大のタラス。中央部からは離れた位置にあり、国内生産の約35%を単独で占めます。標高1,200〜1,900mという再編前の8区分の中でも高い部類の高地です。

3つ目が太平洋側と大西洋側で分かれる中〜低標高帯です。太平洋側南部のブルンカは標高900〜1,400mで国内生産の約5分の1、中央部のオロシは約1,000〜1,400m、大西洋側のトゥリアルバは約600〜1,400mで、いずれもタラスより低く、セントラルバレー・ウエストバレーの火山地帯とも別の環境です。グアナカステは今回の調査で位置関係の詳細までは追えていません。

名前のつまずき — ハニーとマイクロミル

ここがコスタリカで一番つまずくところです。インドネシアの入口が精製の種類、グアテマラの入口が標高規格だったのに対し、コスタリカの入口はハニープロセスという単一の精製と、それを支えるマイクロミルという生産の仕組みです。

マイクロミル運動は2000年代半ばに生まれました。近接する複数の小農園が共同で、ハニー精製に使うパルパー(果肉除去機)などの設備に投資する形態です。産地解説にはこれを「マイクロミル革命」と呼ぶものもあり、小規模生産者が工程を自ら管理する余地を広げ、ロット単位でのトレーサブルな流通を後押ししたとされます。

ハニープロセスはウォッシュトとナチュラルの中間にあたる精製で、果肉を除去したあと、ミューシレージ(粘液質)を一部から全部残したまま乾燥させます。発祥地をコスタリカとする資料とブラジルとする資料があり、専門メディアDaily Coffee Newsの解説記事は、2008年の地震後に政府が水使用の制限を課したことが、水を多く使うウォッシュトの代替を模索するきっかけになったと説明しています。先駆者としてしばしば名前が挙がるのはLas Lajas MicromillのOscar・Francisca Chacón夫妻で、アフリカやブラジルで見た水を使わない処理法を参考にしたとされます。

ハニーには色区分の表記があり、日本の商品名にも「イエローハニー」「レッドハニー」「ブラックハニー」「ホワイトハニー」が見られます。ミューシレージを残す量の目安として、ホワイト・イエローは大半を除去、レッドは約半分を残し、ブラックはミューシレージをほぼ全部残すという説明がありますが、この色分けは業界内の緩やかな目安であり、Daily Coffee Newsの解説自身が「決まった定義ではない」と明記しています。色が濃い(ミューシレージを多く残す)ほど甘さやボディが強く、ウォッシュトに近いほどクリーンで軽いという傾向が、典型として語られます。詳しくはハニーの用語ページを参照してください。

商品名にハニー以外の精製が書いてある場合は、ウォッシュト、ナチュラル、あるいはアナエロビック(発酵を制御した派生系)です。マイクロミル単位でロットが分かれるコスタリカでは、こうした精製の表記そのものが銘柄の識別に使われる傾向があります。

規格 — SHBは標高規格

**SHB(Strictly Hard Bean)**はグアテマラと同じ名前の等級ですが、SHB・SHGの用語ページにあるとおり、国が変われば同じ略号でも標高の閾値は別物です。コスタリカのSHBの標高基準は、情報源により「1,200m超」「1,350m超」と幅があり、確定した一次資料の閾値には今回の調査でもたどり着けていません。SHBに次ぐGHB(Good Hard Bean)は標高1,000〜1,200m前後(資料により1,000〜1,350mとする記載もあります)、HBまたはMHB(Medium Hard Bean)は標高1,000m未満という位置づけです。標高が高いほど昼夜の寒暖差で豆の成長が遅くなり、密度が高くなることが上位等級の根拠として説明されています。

グアテマラのSHBが標高規格の説明として先に整理されているので、規格そのものの仕組みはそちらの記事を参照してください。コスタリカで押さえておく点は、産地区分(タラス等)と規格(SHB)、精製(ハニー等)が商品名の中で別々の軸だということです。

品種 — 戦後の転換とコスタリカ生まれの品種

第二次大戦後、輸送性が低く低収量のティピカ・ブルボンから、小型で多収のカトゥーラ・カトゥアイへの転換が進み、栽植密度は1haあたり1,000本台から3,000本台へ増加しました。カトゥーラはブルボンの自然変異種で、1915〜1918年頃にブラジル・ミナスジェライス州の農園で発見され、グアテマラを経由してコスタリカ・ホンジュラス・パナマへ導入されたとされます。カトゥアイはムンドノーボとカトゥーラの交配種で、1949年にIACが交配し、1972年にブラジルで商業公開されました。

ビジャサルチはブルボン集団の単一遺伝子変異による小型変種で、1950年代か1960年代にコスタリカのアラフエラ州北西部で発見された、コスタリカ生まれの品種とされます。ゲイシャもロット単位で流通しており、国内の商品名にも表記が見られますが、コスタリカへの導入時期・経路は今回の調査では確認できていません。

国内の棚の実態 — 観測データから

コピチャ観測所が観測する国内店と楽天市場の出品者のうち、産地がコスタリカのコーヒー(ブレンドを除く)は162銘柄・32店でした(catalog 2026-09-13時点)。内訳は生豆88、焙煎豆57、その他(生豆卸の焙煎サービス等)17です。焙煎豆の100g換算の中央値は¥1,130(31件)、生豆は¥443(47件)。

精製が商品名に書かれている銘柄は94件(ハニー61、ウォッシュト14、ナチュラル11、アナエロビック8)で、残る68件は精製が書かれていません。ハニーが精製表記の中で最多で、産地の輪郭がそのまま商品名に出ています。

見出し語(商品名の照合) 銘柄 店 生豆 焙煎豆 焙煎豆の中央値/100g 生豆の中央値/100g
ハニー 61 14 36 17 ¥920 ¥368
SHB 49 3 36 0 — ¥300
タラス 40 11 29 3 ¥1,209 ¥342
ゲイシャ 15 7 6 9 ¥2,397 ¥1,690
トレスリオス 3 1 2 0 — ¥300
カトゥーラ 1 1 0 1 ¥869 —
ビジャサルチ 1 1 1 0 — —
セントラルバレー 0 0 0 0 — —
ウエストバレー 0 0 0 0 — —
ブルンカ 0 0 0 0 — —
オロシ 0 0 0 0 — —
トゥリアルバ 0 0 0 0 — —
グアナカステ 0 0 0 0 — —
マイクロミル 0 0 0 0 — —

(100g換算は在庫のある行の最安値。中央値は5件未満のときは出していません。語は題名で照合しているので、1銘柄が複数の行に数えられます。見出し語のどれにも当たらない銘柄が49件あります)

読み取れることが3つあります。

  1. ハニーが精製表記の中で最多、かつ全見出し語の中でも最多の61件・14店。SHB(49件・3店)より扱う店が多く、コスタリカの棚では規格より精製が先に立つ商品名が多数派です
  2. タラスが産地区分の中で唯一まとまった数(40件・11店)。トレスリオスは3件・1店にとどまり、セントラルバレー・ウエストバレー・ブルンカ・オロシ・トゥリアルバ・グアナカステは商品名の見出し語としては2026-09-13時点で0件でした。産地区分そのものより、タラスという一部の地名だけが商品名に定着しています
  3. ゲイシャは焙煎豆が9件で生豆の6件を上回り、価格も別格です。焙煎豆の中央値は100gあたり¥2,397、生豆は¥1,690で、ハニー(¥920・¥368)やSHB(生豆¥300)とは一桁近く違う水準になっています

焙煎豆は焙煎豆相場ボード(コスタリカ絞り込み)で日ごとの分布が見られます。生豆は生豆価格ボードで、産地×規格の組み合わせが店をまたいで並びます。

買うときの目安

  • まず1袋なら「タラス ハニー」。産地区分と精製がそろって商品名に出る組み合わせで、扱う店も多く比べやすい銘柄です
  • 精製の色区分が書いてあれば、そこが選ぶ手がかり。ホワイト・イエローに近いほど軽く、ブラックに近いほど甘さとボディが強いという傾向で読めます。同じ農園でハニーとウォッシュトが並んでいれば、精製の違いがそのまま飲み比べになります
  • SHBだけの商品名は、産地区分か農園名を探す。標高規格は等級の目安にはなりますが、タラスなのかそれ以外の区分なのかは商品名の別の語を見ないと分かりません
  • ゲイシャは価格が別枠と考えて選ぶ。観測でも生豆・焙煎豆とも中央値がハニーやSHBの数倍で、農園やロットを前面に出す売り方をされています

まとめ — コスタリカの選び方3ステップ

  1. 産地区分で位置を掴む: タラスが国内最大でセントラルバレー・ウエストバレーの火山地帯が歴史的中心地。ブルンカ・オロシ・トゥリアルバは中〜低標高帯
  2. 精製で読む: ハニーの色区分(イエロー・レッド・ブラック・ホワイト)がこの産地の中心。マイクロミル単位でロットが分かれるため、精製の表記が銘柄の識別を兼ねる
  3. 規格は別の軸として見る: SHBは標高規格であって産地区分ではない。同じSHBでもタラス産か他区分かは商品名の別の語で判断する

グアテマラがSHBという規格から入る産地だとすれば、コスタリカはハニーという精製から入る産地です。同じ標高規格を使いながら、棚に出てくる商品名の重心がここまで違う、という点がこの2か国を並べて見る意味です。